SSまとめ
「……なあリアム」
「ん? どしたの“アステル”?」
呼ばれて振り向いたリアムだったが、何故か残念そうに目を細めるアステルに困惑する。
「え……何? 何かした僕……?」
「いや……そうじゃなくてだな……」
後頭部に手を添えながら視線を落とす。やがてアステルは手を下ろすと、言いにくそうに話し始めた。
「……あのな、リアム」
「うん」
「お前って、あだ名で呼ぶの好きなのか?」
「え、何で⁇」
「結構呼んでるイメージだから」
「いやいやそんな事ないっしょ。あの三人は『長いから』って理由で、自分からあだ名で呼んでって言ってるし」
因みに『あの三人』とは、ルーイ・ルーナ・ミエールの三人である。
「だがルシャントとミュティスはそうじゃないだろ?」
「僕、五文字以上の名前呼びずらいんだよねー」
リアムはルシャントを“ルー”。ミュティスを“ミュティ”と呼んでいるが、その他のメンバーについては普通。アステルもその一人だ。
「そ、そうなのか……」
あからさまにがっかりされ、流石に察した。
「……もしかしてさぁ」
「別にあだ名が羨ましいとかそそそんなことは」
「全部言ってるよ」
苦笑混じりに伝えると、アステルは目線を左右に泳がせ、小さく頷いた。
「俺にも付けてほしいなー……なんて」
うーん、とリアムは大いに悩んだ。
(まいったなぁ……アステルから全然思い付かない……どうしよ)
だがしかし、期待で目を輝かせる彼を前に「思い付きません」とは言えない。
あっそうだ、とリアムは膝を打つ。
「アステルより前の名前は?」
「……“ラエスト”」
四文字ーー!(リアム、心の叫び)
リアムの思考を読んだのか、アステルは悪いなと謝る。
「それにあの……出来れば“アステル”からが良いんだが……」
「だ、だよねー」
「思い付かなさそうか……?」
見る見るうちに目の輝きが曇っていく。
あわわわ、とリアムは思考を巡らせる。
「……あっ!」
「思い付いたのか⁉︎」
「“アステール”!」
一気にアステルの目が曇った。
「……それ略したら“アステル”だろ」
「……そっすね」
かくして、『アステルのあだ名命名式』は開式すらされなかったのであった。