あなたとわたし ※短編集

ミュティス・ミトス&ソール編
─side Sole


「《ロードクリスタル》はもう直せない?」

 冒頭からそう驚愕を露わにする僕──ソール──は、ここまで付いてきてくれたお二人の言葉をそっくりそのままオウム返し。
 世界各地に宿る【精霊王】の中で最も古い【鏡の精霊王】の化身、ミュティスは。絹の如く艶やかで滑らかな長髪を揺らし、小さく肯定する。


 順序が入り乱れて申し訳ないが、簡単に経緯を説明しよう。
 二人にここ、『星見の塔』まで来てもらった理由は、塔内に鎮座する《ロードクリスタル》の修復を頼みたかった。
 僕自身は『あの事件』を忘れぬためにも、そのままの状態で良いと考えていたが。なにぶん周りがやれ神聖さに欠けるや我が勢力の立場うんぬんや……とにかく、大きなヒビを修復すべきだという声が多数上がり、致し方なくこうして協力者を呼んだ次第だ。


「ひび割れた部分だけを修復することは不可能。元の状態にするというなら、ミトスの手で一度破壊、再構築する必要があるわ」
「破壊……?」

 淡々と語る彼女の言葉に、僕は背筋が凍るような感覚を覚える。
 彼女の隣に立ち並ぶ大柄の男性──この世界を創りたもうし唯一神『アストルム』の仮の姿であるミトスは、沈黙を重ねるばかり。
 ふと、彼らが所属する勢力【ミリアッドカラーズ】首領の友人リアムが、二人を呼びに行った際に告げられた言葉を思い出す。

『ミュティとミトスは大事なことを言い忘れがちだから、不思議に思ったら遠慮なく聞いたほうがいいよ』

 今がその時なのではないか。
 僕は気の赴くままに質問を投げかける。

「待ってくれ。その、《ロードクリスタル》を破壊するという行為には、何かしらの影響があるんじゃないか?」

 ミュティスはちらりとミトスを見遣り、彼の代わりにといった風で回答した。

「現時点で存在している【精霊王】は全員『消滅』。新たな【精霊王】に変わるだけよ」
「ならダメだ。《ロードクリスタル》はこのままでいい」

 口を衝いて出た言葉にミュティスは首を傾げる。

「どうして? 直したいのでしょう」
「現存する【精霊王】が全員消滅するというなら、化身たるリアムやミュティスきみも死ぬことになるのだろう。君達自身がそうしたいのならともかく、僕達の都合で犠牲になる必要はない」
「……」

 そのまま彼女は口を閉ざした。長い付き合いでもない僕は、灰色の瞳に宿した感情を理解することはできないが納得してくれたなら嬉しい。……それにしても危なかった〜。危うく頼んでしまうところだったよ。

「……ミトス?」

 ここでようやく、ミトスが動きを見せた。黄金色のローブを翻し、僕の背後に聳える《ロードクリスタル》に歩み寄る。
 彼が手を触れたことで、《ロードクリスタル》から発せられる淡い光が、僅かに強まった気がした。

「……歴史は、再び繰り返される」

 神が下す予言の予兆。僕は食い入るように見つめる。

「悠久の時を経て、彼らは再来を果たす。それは愚かたる人の子に与えられし罪と罰。決して消せぬ戒めの輪廻」

 神威を抑えているはずのミトスと、本来の『星神アストルム』の姿が重なって見えた。
 するりと《ロードクリスタル》から手を離したミトスが、こちらへと歩を進める。僕の側を過り出入口を目指すも──途中で足を止めた。

「……だが、『ヤツ』が許しはしないだろうな」

 それは僕に向けてか、はたまた《ロードクリスタル》に向けてなのか。
 歩みを再開したミトスの背に、微笑をこぼしたミュティスもまた彼を追って行く。
 残された僕は最後まで彼らから目を離さず見送り、呟かれた言葉のひとつひとつを噛み締める。


 いつの日かアストルムが言っていた『答え』が。
 この世界のどこかで眠っているような予感と共に。

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