あなたとわたし ※短編集

リーヴ&ルイス編
─side Lewis


 『オラトリオ地方』第一勢力【フィンスター】首領。それがこの僕──ルイス──に与えられた地位だ。
 巷では悪の研究施設だとか言われている(間違ってはないけど)僕の勢力は、ざっくり説明すると魔物を捕まえてはその生態を詳しく調べて、いろんなところに研究成果を“売る”のが主な仕事。
 それ以外にも、僕のように魔法アイテムを作っては個人で販売する、みたいな研究者もいるけど。
 黒の外衣を脱ぎ捨て、地下研究施設から地上に出た僕はあまりの眩しさに片手で陽光を遮る。
 ひっじょーに面倒な気持ちを押し殺し。僕は王都の石畳みを踏み歩く。
 本日の仕事は──知り合いの厄病記者(僕命名)こと、【ミリアッドカラーズ】首領のリアムに会いに行く。
 ただ会いに行くなんて意味のないことはしないよ。彼に押し付けた試作品の魔法アイテムに不備が見つかったから直しに行くだけ。
 本当はリアムに持ってこさせようとしたけど、火花がバチバチらしくて近づくことすら出来ないらしい。いつもの気合いはどうしたのさ。

(全く……こっちだって暇じゃない。大したことなかったら魔物の巣に放り込んで、ドロップアイテムを一つ残さず回収させてやる)

 とは言えリアムも僕の多忙具合は理解している。無駄足を踏ませたとなれば、激怒するのもお見通しなはずだ。ちょっとやそっとのことで呼び出したりはしない。
 なんやかんや上質で貴重なドロップアイテムを譲って貰えたり、飲みに誘えばいやいやながらも付き合ってくれる仲。たまには我儘を聞いてあげなくもない。僕は心の器が広い男だからね。
 緩やかな坂道を登り詰め、ぽつんと佇む異様な家の前に到着。乱れた呼吸を整え、インターホンを鳴らした。

「は〜い……」

 ゆっくりとした手つきで扉を開けたリアムは何故かよそよそしい。僕の顔を見るなり、ははっ、と下手な笑みを見せる。
 ……何かを隠してやがるな、こいつ。

「邪魔するよ」
「あっちょっと待っ」

 慌てふためくリアムを押し除け部屋の中に入る。

「……ん?」

 窓から差し込む光を浴び、新品同様に輝きを放つ『試作品』。
 僕は傍らで指の腹同士を突き合わせるリアムに、説明しろと詰め寄った。


♦︎♢♦︎


 リアムの弁明という名の説明を受け、僕は今【ミリアッドカラーズ】拠点の二階へと上がっている。
 ボコした彼が言うには、仲間の一人であるリーヴがふらりと現れて火花散る試作品をあっという間に直して行ったらしい。
 これは文句のひとつやふたつ言わなければ気が済まない。
 リーヴの部屋に無断侵入し、彼の部屋にある《ポータル》を迷いなく進む。《ポータル》は離れた場所同士を繋ぐ装置で、僕ですらまだ手を出せない高度な技術。文句ついでに技術のひとつやふたつ盗んで帰ろうかな。
 《ポータル》を抜け出た僕の景色は一変。コンクリート打ちっぱなしの冷えた空間に散らばる資料に囲まれ、リーヴその人は羽ペンを澱みなくスラスラと書き綴っていた。
 用途は違えど同じ道を志す者だ。僕は彼が今、何をしているのか分かってしまう。

(新しい道具の案でも閃いたんだ……)

 前のめりになって紙と睨み合うリーヴに、僕の怒りやらなんやらは頭の隅に追いやられる。
 声を掛けるのも忘れて見守る僕は不意に。足元に転がるレンチを軽く小突いてしまった。ぴくりと手を止めたリーヴが振り返りがてら──なんと長銃を構え、発砲。呆けていた僕も即座に銃剣を召喚し、弾を弾き飛ばす。

「……なんだ、お前か」

 こちらに向けていた銃口を下ろしたリーヴがそう肩をすくめる。見知らぬ人物が自宅に侵入したらそんな反応にもなるだろうけど。……危うく首が刎ね飛ぶところだった。

「何の用だ? 急ぎでないなら帰ってくれ」

 謝罪する気が微塵も感じられない。目を細めていた僕は、ささやかな意趣返しに「別にぃ?」と煽ってみる。

「試作品とはいえ僕の作品を簡単に直した……ってことに、違和感を感じてね」

 ──遠回しに『僕の設計図を盗み見でもしたのか』と疑ってみた。大抵の奴は疑われて良い気分にはならない。目の前の彼も例にもれず、眉間に深い皺を刻む。

「そんな幼稚な真似するか。さっきのは、“分かりやすい”構造だったから直せただけだ」
「へえ……」

 さっさと帰れと言わんばかりにこちらに背を向けた男に僕は──言いしれぬ不快感を感じた。
 それが何なのかは考えたくもない。自分が劣っていると認めてしまうのと同意だからだ。

(殺してしまおうか)

 技術はあっちが上でも、戦闘においては僕のほうが有利。確実に仕留める自信はある。
 殺して、ここにある資料を全部奪えば。僕はまた理想の自分に近づくことができる。それで失うものがあるとしても……どうでもいいや。
 一歩、二歩。距離を詰める僕の耳に、男がもらした声がやけに響いて届く。

「そういえば、お前が作ってリアムにやったコンタクトレンズ。失明するかもしれないって言うわりには不備ひとつ出てこないな」

 足を止め、目を見開く。
 相変わらずリーヴはこちらを見向きしないし、それ以降は黙っていたが。
 ……なんとなく。今は見逃してやろうという気になった。リアムとの縁が切れるのも不利益に繋がるかも。
 僕は息を吐き、来た道を引き返す。

「当たり前でしょ。一番の自信作なんだから」



 《ポータル》の中へとルイスが消えていくのを横目で見届けたリーヴはひとり、嘆息する。

「……これだから餓鬼のお守りはいやなんだ」

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