SSまとめ

腕相撲


 事の発端は、“彼女”の戦い方にあった。


「ミエールって意外と力強いよね……」
「そうですか?」

 きょとんとするミエールに、リアムは数回頷く。

「だって杖で敵殴ってるし……ってかあの杖って打撃用なの?」
「いえ全く」
「ええ⁉︎ それって壊れない……?」
「ちゃんと加減はしていますので大丈夫ですよ」
「加減するんだ……」

 あっそうだ、と閃いたリアムはパック牛乳を机に置いた。

「腕相撲しようよ! こう見えても僕、腕力には自信あるんだよね」
「いいですよ」

 机を挟み、向き合った二人はお互いの手を合わせグッと力を入れる。

「レディー……ゴー‼︎」

 勢いよく腕を動かしたリアムだったが、己が目を見開いた。

(い、一ミリも、動かないだと……⁉︎)

 まるで象を相手にしているような感覚。
 どれだけ力を入れてもミエールの表情が曇ることはなく。

「えいっ」
「あだっ」

 愛らしい笑みを浮かべ、リアムの手の甲を優しく机に叩きつけた。

「私の勝ちですね」

 その笑みを前に、リアムは思う。
 これは……やばいのでは? と。

「何してんだお前ら」
「リーヴ‼︎」

 何気なく声を掛けただけであったのに、突然大声で名前を呼ばれ肩を震わせる。

「な、なんだ急に……」
「ミエールと腕相撲して!」
「はぁ?」
「これは男の沽券に関わる勝負だよ!」
「お前の世界は随分狭ぇな」

 諦めてミエールの対面に着席。互いに手を握りしめると、リアムが開始の合図を放った。

「……は?」

 またしても微動だにしないミエールの腕。間もなくミエールがリーヴの腕を押し倒す。

「女とは思えない力だな」
「くっ……こうなったら男子全員呼んでくる‼︎」

 なぜか躍起になっているリアムに呼ばれ、男子全員が集合した。

 三戦目、アステル。
「うぐぐぐぐぐぐぐ」
「頑張ってくださ〜い」
「……両手でも駄目っぽいね」

 四戦目、ルートヴィッヒ。
「な、なかなかに強者……」
「えいっ」
(あ、瞬殺)

 五戦目、ミトス。
「えっと……力入れてます?」
「……腕相撲、とはなんだ」
「そこからかー」

 一人、また一人と敗れ。残ったのはルシャントのみ。

「勝ってほしいけど、身体強化は無しだよ」
「分かってる」
「お手柔らかにお願いします」

 微笑むミエールを真っ直ぐと見つめ、手を握る。

「レディー……ゴッ‼︎」

 異変は、開始直後に起きた。

「動いてない……?」
「いや違う。多分拮抗してる」

 どちらに傾くこともない腕。またまたミエール優勢かと思われたが、ミエールの表情から笑みが消えている。

「んっ……」

 そして、少しずつミエールの腕が傾き始め、そのまま巻き返すことも出来ず。初めて手の甲を机に押し付けられた。

 ルシャントの勝利に、リアムはガッツポーズを決める。

「いよっ、流石! これで男の沽券は守られた!」
「嬉しくない」


 ──後日。ルーナとも腕相撲をした結果……ルシャント以外の男子全員敗北。

「男としてどうなんだ……」

 憐れみの眼差しを向けられた。

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