ゆるミリ

悪い子へのプレゼント


「シエルはさ、今欲しいものとかある?」
「えっ……?」

 聖なる日当日。リアムからド直球に問いかけられたシエルはたじろぐ。

(クリスマスプレゼントの話かな……い、いやいやまさか……ぼく悪い子だし……)

 シエルほど善人な悪い子がいるだろうか――疑問ではあるが。欲しいもの=クリスマスプレゼントと直結する辺り、シエルにも年相応な部分があるようだ。

「欲しいもの……ですか?」

 上手な返し方が思いつかず、シエルは質問を聞き返す。

「うん。知り合いの人がお子さんにあげるプレゼントを探しているんだ。僕達の中でシエルが一番若いでしょ? 参考にしようと思って」
「そ、そういうことでしたか……」
(ぼくの勘違いだったんだ……自分だと思って恥ずかしいな……)

 口にしなかったのが唯一の救い。自分に恥じらいつつも、シエルは首をひねる。

「そうですね……その方のご年齢にもよりますが……」
「うーんと、シエルと同じぐらいだったかな」
「……、思いつきません」

 幾度となく思案を巡らした末に、シエルはそう結論を出した。
 リアムは軽く目を見張ったがすぐに「そっか」と微笑む。

「ありがとね。考えてくれて」
「いえ……。すみません、時間なので行ってきます」

 今日という日でも神子の役目は欠かさず行う。守人ラティスが待つ神殿へ出発したシエルを見送ると同時、階段上で待機していたアステルが駆け降りてきた。

「らしいです」
「『らしいです』じゃねーだろ……どうすんだよプレゼント」

 どうやらリアムの質問はシエルに渡すクリスマスプレゼントを決めるためだった様子。
 呆れた目つきのアステルに、しょうがないじゃんと頬を膨らませる。

「悲しい顔されたら聞けるものも聞けないって」
「それは……そうだけど」

 二人揃ってうーんと思考に耽る。
 先に沈黙を破ったのはアステル。

「……なあ、リアムは孤児院にいたよな? その時はどうだったんだ?」
「え〜っと……ちょっとしたクリパして、お互いに作ったものを交換し合って、それから――」

 リアムはハッと目を見開いた。窓の外を見遣り、拠点近くに生える一本の木を見つめる。

「……いいこと思いついちゃった!」



 シエルが拠点に帰ってきたのは夕方だった。すでに陽は沈み、辺りは真っ暗だ。
 緩やかな丘を登りきれば、拠点の近くで何やら作業をする仲間達の賑やかな声が聞こえた。

「あっシエル! お帰り〜」

 笑顔で出迎えたリアムにシエルは首をかしげる。

「みなさん一体なにを……?」
「木に飾りをつけてるんだ。何ツリー……だったっけか?」
「クリスマスツリーだよ」
 ルシャントにそれそれとアステルは頷く。
「針葉樹ではないがな」
「リーヴさんがイルミネーション用の飾りを造ってくださっているんです」

 マフラーに手袋といった完全防備のルーナとミエールが口々に呟く。
 近くではリーヴが、ギュイィンと電動音を響かせて何かを造っていた。

「……これを」

 と、ミトスから電飾を渡されたシエルは戸惑いながらも木に近づく。

「使う?」
「あっはい。使います」

 ミュティスが乗っていた足場に立ち、どこに飾ろうかと悩む。各々が思い思いに飾っているらしく、全体的にバランスが悪いも――少しだけ背伸びをして――届く範囲に飾りつけた。

「シエル」
「はい。……っわわ」

 自身を呼んだリーヴに振り返った直後、胸の中に大きな星の飾りが投げ込まれた。見事にキャッチしたシエルは安堵し、星の電飾を見つめる。

「お前がてっぺんに飾りつけろ」

 ベツレヘムの星。クリスマスツリーの頂上で輝く大きな星のオーナメント。主役とも言える星にシエルは首を横に振る。

「ぼくじゃ届かないですっ!」
「大丈夫。さあ、お手を」

 ダンスパーティーに誘うごとくルートヴィッヒが手を差し伸べた。
 導かれるままシエルは手を取り、ルートヴィッヒが乗る本に乗り移る。ふわっと優しく浮遊した本は、あっという間にシエル達を木の頂上へ運ぶ。
 ルートヴィッヒに支えられながら、恐る恐るベツレヘムの星を飾りつける。そのタイミングを見計らい、リーヴはイルミネーションの電源を入れた。

「わぁ……!」

 白い息と共に感嘆の声が口からもれる。
 キラキラと輝くそれはまるで宝石箱を開けたように。
 久しぶりに思い出のたからばこを開けたような、幸せな気分に包まれた。
 地上に戻ったあとも、シエルは瞳を輝かせてクリスマスツリーに魅入っていた。その横顔は純粋な子供そのもので、嬉しそうに見守っていたのだが――「くしゅん!」とシエルがくしゃみをしたことで、くすくすと笑みがこぼれる。

「中に戻りましょうか」
「夕ご飯も冷めてしまうしな」

 ミエールとルーナに続いて、皆が拠点の中へ入る。

「シエルー」

 ぱたぱたと拠点へと駆ける少年を、ベツレヘムの星は優しく見下ろしていた。
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