その他小説
太陽と月に愛された――『アンフィニ地方』。
中央に祀られている『リトルクリスタル』を守るため、周囲を城郭で囲う閉鎖的な地方。
地方を統治する二大国家『エピフィラム』『チトニア』の関係は良好であり、王女である私とミエールが出会うのも必然であった。
「ルーナっ、ごきげんよう」
「待っていたよミエール」
私達はすぐに意気投合し、お互い愛称で呼び合うぐらいに仲良くなった。
付き人に無理を言ってはどちらかの王城に赴き、時間が許す限り、互いの近況を語り合う。
「見てくださいルーナっ。このお話に出てくる王子さま、すてきだと思いませんか?」
「たしかにすてきだが……私だってこのぐらいできる。……多分、きっとだ!」
「ふふ。おうえんしてますよ、ルーナ!」
当時からミエールが恋愛ものの話が好きだったように、私も騎士道物語を好いていた。
『民を守れる騎士でありたい』。そう高尚な志を掲げ、私は日々鍛錬を続けた。
手には多くのマメができ、潰れた痛みで何度も泣いていたが。諦めることはしなかった。
家族はみんな応援してくれていたし、カッコいい自分になりたかったのだ。
しかし。純粋に追いかけていた夢は、突如として変わってしまう。
――八歳の頃。我が『エピフィラム』の王妃――私の母上は事故に巻き込まれ、そのまま帰らぬ人となってしまった。
加えて不運なことに。同じ日に『チトニア』王――つまり、ミエールの父君も事故により崩御してしまった。
重なった偶然はさらなる不幸を呼び、とある記者が『両者は密会の最中に事故に巻き込まれた』というデタラメを吹聴したことで、王家の信頼も両国民の仲も険悪となった。
もちろん、事実無根ではあるが。信頼回復のため、両王家は一切の交流を断ち切る判断を下した。
「るぅな……わたっ、わたしっ……こわい……こわいです……」
「ミエール……」
母上のお葬式後、私とミエールは周囲の目を潜り抜けて合流した。
そう大粒の涙を流すミエールはこれから、心労で療養中の王妃様に代わり、国王代理となる彼女の兄様と公務を執り行うこととなる。
周囲の期待が怖いと弱音をこぼす彼女に、掛ける言葉は見つからない。
唯一の女性王族となってしまった私もこれから母上に代わり、より『王女らしさ』を求められることだろう。
剣を捨て、身を着飾り、いつかは誰かの元へ嫁ぐのだろうか。
……それが本当に、私が目指していたものなのか。
数日間悩んだ末に出した結論は――否、である。
「……わたしも怖いさ。でも、騎士となる夢を諦めたりはしない」
名も知らぬ誰かを助けられる強さを持たなければ、私は私を許せはしない。
「もう二度と大切な人を失いたくはないから。わたしは、わたしが思い描く騎士を目指し続ける。……だからミエールも、自分なりの『姫』であってくれ」
「……ルーナ」
励ましの言葉にもならない私の気持ちに、ミエールは涙を拭うと力強く頷いた。
「そうですね、ルーナ。次に会う日までにはきっと……」
「ああ。『騎士』と『姫』でいよう」
こうして私達は、別々の道を辿ることになった。
いつの日かまた会う時。私達は、理想の自分になっていると信じて。