タロット短編

【死神】の衣装

〜本編5話閲覧推奨〜

 ナンバー13【死神】の『シンボル持ち』――鎌苅かまかり 神吾しんご
 物語が大きく躍動する要因となった【愚者】誕生から数週間前。神吾は、居候先の主人である帝人みかどに呼び出された。

「来たが」

 ノックをすればたちまち『入れ』と入室を促され、一般人には無縁な高級家具が立ち並ぶ室内を進む。
 レザーチェアに腰掛ける帝人は神吾に背を向けており、その表情は窺えない。

「……何か」

 すらりと伸びる長い脚を組み、等間隔に食指で脇息きょうそくを叩く。
 やがて嘆息した帝人に、神吾は僅かに眉根を寄せる。

「シンボル狩りの量が不服?」
「――目立つ」

 くるりと回転した帝人は瞑目したまま片手を持ち上げて。

「これほどまでに目立つとは思わなかった。全く、口封じも簡単じゃないんだぞ」

 やれやれと肩をすくめる帝人を、神吾は無言で見つめ返す。
 『どうすればいいのか』と目線で訴える神吾に対し、帝人は近くのテーブルを顎で示した。

「目立たないよう衣装を用意した。今夜からはそれをつけてシンボル狩りを行え」

 置かれていたのは白い仮面と黒の外套がいとう
 急拵えではあるが、無いよりかはマシだと考えたのだろう。
 神吾は仮面を手に取っては装着。

「……視野が狭まる」
「お前ならどうとでもなるだろう」

 それより、と帝人はそれまで操作していた端末の画面を見せる。

「今夜のターゲットは彼だ」

 見せられた画面に映る人物を、神吾はただ見るだけ。

「【月】を刈り取れ、【死神】」

 そこに感情も、意思も、ありはしない。

「分かった」

 抑揚のない声で承諾する黒き瞳に――希望は映らない。


3/3ページ