タロット短編
『沌邂町』――『火杖地区』の一角にある青い屋根が目印の一戸建ての前。
「ここが僕の家です」
そう柊馬が笑いかけるは、一歩後ろで並び立つ零と月矢の二人。
学校終わりの放課後。柊馬に誘われるがまま、彼が家族と暮らす自宅へと二人は招かれたのだ。
乗り気でないのに連れて来られた月矢の威圧をひしひしと感じつつ――零は、手にした袋を見遣る。
(手土産……コンビニのお菓子で良かったかな……)
ちゃんと手土産を用意する辺り、礼儀正しい。
どうぞ、と玄関の扉を開け中へ入る柊馬に。月矢は諦めたように嘆息し、縮こまる零を連れて追従する。
「ワンワンッ!」
「わわっ」
扉が閉まるや否や、家の奥から二頭の犬が飛び出してきた。驚き月矢の背に隠れる零を、柊馬は犬達を宥めながら「大丈夫ですよ」と安心させる。
「お前、犬飼ってたんだな」
「ええ。こっちが『ケル』、こちらが『ベロス』です」
大型犬の『ケル』と『ベロス』は、柊馬の頬に顔を擦り付け尻尾を激しく揺らしていた。
「番犬なんですけど、家の中のほうが好きみたいで〜……」
「……名付け親はお前だな」
「え、どうして分かったのですか?」
いかにも厨二病――失礼。かっこいい名前を付けたがるのは柊馬だろうと察しただけである。
「まあ……何となく」
「流石月矢先輩!」
黙っておいてやろうと哀憫の眼差しを向けた。
「柊君、そろそろ……」
「あっ、僕としたことがすみません。どうぞお上がりくださいませ」
ようやく玄関から離れた一行は、眼前に伸びる階段を伝い二階へ。
「適当にくつろいでてください。今、飲み物お持ちしますね」
にこりと微笑んだ柊馬が一時退室。残された零と月矢は床に置かれたクッションの上で脚を崩し、部屋の壁という壁を埋め尽くす色とりどりの『コレクション』を眺める。
(柊君って結構雑食なんだ……)
あらゆるジャンルのグッズに思わず感嘆する零の傍ら、月矢は頭に疑問符を浮かべていた。
「こんなに集めてどうすんだか」
「あはは……」
膝を抱え三角座りをしていた零は、ふいに戸棚の前へと移動し始めた。その様子をじっと見つめる月矢だったが、次第に気になったのか「なあ」と声をかける。
「どうした」
「……懐かしいなぁと思って」
透けガラス張りのキャビネットには、多種多様なゲームのカセットケースが並べられていた。マニア御用達のものからほのぼのライフ系のものまで――乙女ゲームが端っこにあるのには、微苦笑ものだが。
「昔はよくゲームやってたんだ。この格ゲーなんか一日中やりこんでたなぁ……」
「今はやってねぇの?」
「うん……一緒にやってくれる人が、いなくなっちゃったから」
懐かしげに細められる眼差し。
月矢はローテーブルに肘をつきながら、ふぅん、と気怠そうに返す。
「ちなみにそちらの作品。来月末に新作が発売されますよ」
「へぇ、そうなんだ。知らなかっ――うわっ⁉︎」
入口を見遣った零は――音もなく帰ってきた柊馬に肩を跳ね上がらせた。
とうに気づいていた月矢は肩をすくませ、差し出されたジュースを一口
「零さん、ぜひ対戦しましょ!」
「うええぇ……? つ、月矢君は⁇」
「俺は見る専」
「う。分かったよ……弱くても笑わないでね?」
「お気になさらず。では早速、お手並み拝見です!」
「……あら?」
玄関の扉を内側から閉めた女性は、二階から聞こえる声に首を傾げた。彼女の足元――年端もいかない幼女も同じく、こてんっと首を傾ける。
「にぃにの部屋うるさいね」
「きっとお友達を連れて来ているのよ。あとでご挨拶に行こうね」
「はーいっ」
靴を脱ぎとてとてと廊下を歩く娘から――視線を息子の部屋がある方向へと向け、優しく目を細めた。
「楽しそうね。柊馬」
後に。彼ら兄妹の母親は、新しく出来た息子の友人らに挨拶するのであった。