タロット短編

一生のお願い


(……あ、柊君からメッセ来てる)

 お風呂上がり。零が自室に戻ると、携帯の画面に通知が一件表示されていた。
 タオルで濡れた髪を拭きつつ確認した零は軽く瞠目する。

『明日、数時間お付き合い願えますか? 一生のお願いです』

(『一生のお願い』って……)

 いつ、どこで、命を落とすか分からない環境下においてその言葉は、零の心に重くのしかかる。

(『いいよ』と……)

 了承するや否や、すぐさま柊馬より待ち合わせ場所と時間が指定される。

(朝早いなぁ……今日はさっさと寝ようっと)


 ――翌日、朝八時。

「おはようございます、零さん!」
「……おはよ」
「あれ? 月君も一緒?」

 待ち合わせ場所では柊馬の他に月矢の姿も。問いかけられた月矢は「柊馬に呼ばれた」と同じ理由を口にした。

「そうだったんだ。それで柊君、呼び出した理由は?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いていただきました!」

 嬉々として眼鏡のフレームを押し上げた柊馬は、鞄から冊子を三つ取り出した。

「何だこれ」
「スタンプラリーの台紙です」
「……は?」

 どうぞと渡された冊子を受け取った二人は目を細める。

「この柊馬が大注目するアニメとこの付近のお店がコラボしてまして。お二人にもぜひ手伝っていただきたいなと」
「いや一人でやれよ」
「それでは駄目なのですよ!」

 ずいっと柊馬は二人に顔を近づけ、声を大にして語る。

「スタンプ制覇の褒美として貰える限定イラストカードの絵柄はランダム配布……一人一枚という規約がある以上、僕一人では到底狙えません。しかし先輩方のご協力があればチャンスは三倍!」
「違う日に回れば良くないか?」
「そのような卑劣な行いは致しません!」
「メ◯カリで売ってるよ、多分」
「買いませんッ! この手で掴み取ります‼︎」

 月矢は嘆息をもらし、押し付けられたスタンプラリー台紙を柊馬に返す。

「俺はやらないからな。『一生のお願い』って言うから来たのに」
(やっぱ月君も言われてたんだ)

 零が苦笑する中、柊馬は一歩も引かなかった。

「『一生のお願い』になる可能性は否定できませんよ」
「……」
「それにこの台紙。一冊800円なんです」
「お金かかるんだ⁉︎」
「地味に高いな……」

 仕方なく月矢は台紙を受け取り、親子に混じってスタンプラリーを制覇した。

 ――その後、『一生のお願い』が頻繁に使われることになろうとは……。

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