イベントクエスト

EQ-Refrain-02
わらしべ長者…?


 この物語は、討伐したモンスターからドロップアイテムを回収しようとしたところから始まる――。


 リアムやナナ達が待つ砦から馬を走らせること数分の僻地へきち
 今日も今日とてモンスターを屠るルフランは単独、積み上がる魔物の死体からドロップアイテムを丁寧に回収していた。万が一取りこぼせば、他のモンスターに喰われ強化させてしまう。下級族とはいえ、油断はできない。
 麻袋に詰めていくルフランの姿を、たまたま通りかかった商人隊キャラバンが目撃。商品を詰め込み膨らんだ鞄を背に歩み寄る。

「あんさん! そのアイテム、おいら達に売ってくんねぇか?」
「お得意様に頼まれてんだが、数が足りなくってなぁ」
「店と同じ値段で買い取るっぞ」

 突如として持ちかけられた取引に驚愕しつつも、ルフランは麻袋を差し出す。

「ぼくいらないから全部タダであげる。お金が欲しいわけじゃないし」
「そういうわけにはなぁ……」
「な、なら、一番の目玉商品と交換トレードでどうだい? それなりに良い品だ」
「うん。わかった」

 大量のドロップアイテムと交換トレードしたのは、読み込まれてしなびた古い本。
 商人隊キャラバンと別れ、砦への帰路に就きながら。ルフランは古い本に視線を落とす。

(小説……かな? ルーイが喜びそうだし、帰ったらあげよう)




「……これを私に?」
「うん。ぼくにはまだ難しいみたいだから」

 砦に帰還したルフランは、図書館で本の虫となっていたルートヴィッヒに古い本を渡した。
 ぺらぺらとページを捲る彼の表情が――徐々に強張り、そして目を見開く。

「この本は……」
「好みじゃなかった?」
「その逆だ! これは数年前に絶版した小説シリーズ『夢のまた夢で』幻の第5巻! 最終巻に続く重大な場面がありながらも発行数が少なくマニアが奪い合う希少な一冊……! まさかこの手にする日が来るとは‼︎」
「よく分からないけど、良かったね」

 はっと正気を取り戻したルートヴィッヒは咳払いをひとつ。お礼に、と一枚の絵を差し出す。

「綺麗な絵だね。ルーイが描いたの?」
「ああ。先日帰郷した時に描いたものだ。お礼としては心許ないが……」
「ううん、充分嬉しいよ。ありがとう」

 ルートヴィッヒと別れ、図書館を後にしたルフランを――今度はリーヴが引き留める。

「帰ってきてたのか」
「ついさっきね。ぼくに何か用事でもあった?」
「あー、いや俺じゃなくて……まあいい。そのうち会うだろ」

 小首を傾げるルフランの手元。ルートヴィッヒが描いた絵を見つけ、「その絵は……」と呟く。

「ん? あ、これはルーイがくれた絵だよ。故郷の絵だって」
「……そうか」

 リーヴの反応に対し、はいと絵を差し出す。

「リーヴにあげるよ」
「お前が貰ったんだろうが」
「そうだけど……なんだかぼくより、リーヴが持っていたほうがルーイも嬉しいと思う」

 にこやかに笑うルフランから絵を受け取り、目を細める。どことなく嬉しそうだ。

「……じゃ、代わりにこれをやるよ」

 ポケットから取り出したものをルフランに握らせ、リーヴはその場から立ち去る。
 彼が持たせてくれたのは、素材として使用するガラス玉。使い道はさっぱり分からない。

(ケイスなら何か知ってるかな?)

 せっかくなら知りたい、と。その足でケイスのもとへ。
 借りている宿屋の一室を訪れれば、魔術研究中のケイスを見つける。

「用があるなら後にして」
「少しだけでいいんだ。これが何か知ってる?」

 強引に視界へガラス玉を映す。
 嘆息したケイスが確認すると同時――見る見るうちに変わる表情。先のルートヴィッヒと似た反応だ。

「……その玉は、」
「珍しいもの?」
「結構ね。……どこで手に入れたの?」
「リーヴがくれたんだ」
「……あ〜ね」

 納得だわと苦笑するケイスに、ルフランは「あげる」と差し出す。

「は、なんで」
「ぼくだと無駄にしちゃいそうだから」
「……貰っとくよ」

 ガラス玉を受け取ったケイスは、立ち去ろうとするルフランに「待ちなよ」と呼び止め、あるものを投げ渡した。

「貰うだけじゃ割に合わないからそれあげる」
「小さな網?」
「『ドリームキャッチャー』。悪夢除けみたいなもん」

 礼を述べたルフランは今度こそ退室。
 宿泊スペースの二階から一階へと降りたその時。何やら心配な会話が耳に飛び込んでくる。

「……確かに寝不足みたいだな」

 談話スペースにて診察をしているのはベータ。患者はシエルのようだ。心なしか頭の兎耳が垂れている。

「大丈夫?」
「あ、ルフランさん……。すいません、最近寝れてなくてちょっと……」

 目の下に隈を作るシエルに不安げな目線を送る。

「寝不足な理由に心当たりはあるか?」

 処方する薬を決めるためにも聞いておきたいが。問われたシエルは言い淀んでしまう。

「……あの、笑わないでくれますか?」
「笑ったりしないし、言いもしない。な、ルフラン」
「そうだよ」

 ややあってシエルは寝不足な理由を話した。

「見る夢が悪夢ばかりで……その度に起きてしまうんです」
「……なるほど。疲れやストレスが原因だな。お前は自分が思ってる以上に無理をするから」
「う……」

 薬箱を手に適切な睡眠薬を選別し始めるベータを横目に。ルフランは先程ケイスから貰った『ドリームキャッチャー』をシエルに渡す。

「これ悪夢除け? みたいだからシエルにあげるよ。今夜はよく眠れるといいね」
「……ありがとうございます」

 頬を綻ばせるシエルに「お大事に」と告げ、ルフランは宿屋から外へ。
 手元には何もなくなってしまったが――仲間達の力になれたという実感は得た。金貨では買えないもの。

「ルフラン! 探したよ〜」
「リアム?」

 これからどうしようかと考えていたルフランの前に、元気いっぱいのリアムが駆け寄る。

「ぼくに何か用?」
「うん! これ、ルフランにあげる」

 渡されたのは手のひらサイズのオーナメント。小さなベルが揺れる度にちりんと音を鳴らす。

「好きそうだなって思って買ったの。いつもありがとう!」

 最後の最後に彼は手に入れた。
 一番の友人から、心のこもった最高の贈り物を。

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