イニティウム

3燿 セイントピア学園【小話】


「ありがとう。確かに受け取ったわ」

 セレが発見した《エターナルスター》の欠片をクレアに手渡したベータは軽く頷き返す。
 傍らに《エターナルスター》を手に待機していたナナが彼らの視線を浴び一歩前へと踏み出せば、クレアの手中にあった欠片が自ずと台座に戻ってゆく。
 二つ目の《エターナルスター》がこの手に戻ってきたことを、ナナはホッと安堵する。

「今回も無事に見つかって良かった。でも……」

 彼女がたちまち眉を顰める理由は、この場にいないセレ当人にあった。
 経緯を聞かなくとも長年の付き合いゆえに察することはできる。同時に、ナナやクレアでは『癒せぬ傷』であることも。

「ベータ」

 クレアの呼びかけに、ベータは多少不服げに肩をすくめる。だがそれも兄である自分の勤めだと気持ちを切り替え、基地『司令室』から宿舎へと赴く。
 行き先は勿論、セレの自室。
 『ネビュラ』に帰還するなり《エターナルスター》の欠片をベータに預けたセレは、リルンを連れて自室に篭ってしまった。
 仕方がないとはいえ、マイム友達との別れは相当こたえたのだろう。自分達とは異なり、セレは異世界人との交流に不慣れな部分がある。だからこそ深入りするなと忠告したのだ。
 ドアノブに鍵がかかっていないのを良いことに、ベータは入室許可も取らず部屋の中へ。

「……何、兄さん」

 扉に背を向け、寝台の上で足を崩し微動だにしない妹に。苦笑にも似た笑みをこぼす。

「ちゃんと渡してきたから、今日はゆっくり休め」
「明日からまた聖女のお勤めがあるもの。言われなくてもそうするわよ」

 ベッドの縁に腰掛けるベータが、こちらを見ようともしないセレの頭を優しく撫でた。
 普段なら「子供扱いしないでちょうだい」と手を払いのけるセレも、今日ばかりは大人しい。
 ぐすっと鼻を啜る音が静寂に溶け込んでは消える。

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