ミリアッドカラーズ

3章 星に願いを【小話】


 霊園から自宅へと戻ったリアムは一人だった。
 ルシャントの姿は道中で消え、マティアスも帰ったらしい。
 代わりにリアムの鼻腔をくすぐる匂いは、空っぽのお腹には刺激が強すぎる美味しそうなもので。

(コロッケだ! 作るの大変だっただろうに……マティアスありがと!)

 今すぐにでも飛びつきたいところだが、リアムは一度料理から目を背ける。

(まずは憂いをなくしてから)



 ――それから数分後。

「ちょっと待っててね。今準備するから!」

 『詳しい話はご飯でも食べながら』という言葉に準じ、アステルとミュティスは『鏡界』の外へ。
 特にアステルは久しぶり、、、、の外界。リアムが準備している間、玄関の扉を開く。

「すげー……」

 今は黄昏時。赤く染まりし空は、恐ろしくも美しい。
 『初めて見る光景』に、アステルは息を継ぐのも忘れて魅入る。

「……ティナクル」

 彼の名前を呼ぶその表情は、憂いを帯びていた。

「オマエも、この空を見ているか?」

 そんな独り言を、中にいたミュティスだけが聞く。
 もうすぐ、アステルが望んだ夜がやってくる。
 今日も世界は、当たり前に回っているから。

「準備できたよ! 食べよ!」

 リアムの声に、アステルは振り返る。

「僕の大親友が作ったご飯だから、絶対美味しいよ!」

 開いた扉の向こうで、リアムが手招く。
 リアムは知らない。そこに並ぶ料理がアステルにとって、初めてのまともな食事になるということを。
 『新世界』で生まれた者は、知る由もない。
 朝が来ることの、夜が終わることの。
 シアワセを。

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