ミリアッドカラーズ
霊園から自宅へと戻ったリアムは一人だった。
ルシャントの姿は道中で消え、マティアスも帰ったらしい。
代わりにリアムの鼻腔をくすぐる匂いは、空っぽのお腹には刺激が強すぎる美味しそうなもので。
(コロッケだ! 作るの大変だっただろうに……マティアスありがと!)
今すぐにでも飛びつきたいところだが、リアムは一度料理から目を背ける。
(まずは憂いをなくしてから)
――それから数分後。
「ちょっと待っててね。今準備するから!」
『詳しい話はご飯でも食べながら』という言葉に準じ、アステルとミュティスは『鏡界』の外へ。
特にアステルは
「すげー……」
今は黄昏時。赤く染まりし空は、恐ろしくも美しい。
『初めて見る光景』に、アステルは息を継ぐのも忘れて魅入る。
「……ティナクル」
彼の名前を呼ぶその表情は、憂いを帯びていた。
「オマエも、この空を見ているか?」
そんな独り言を、中にいたミュティスだけが聞く。
もうすぐ、
今日も世界は、当たり前に回っているから。
「準備できたよ! 食べよ!」
リアムの声に、アステルは振り返る。
「僕の大親友が作ったご飯だから、絶対美味しいよ!」
開いた扉の向こうで、リアムが手招く。
『新世界』で生まれた者は、知る由もない。
朝が来ることの、夜が終わることの。
シアワセを。