Spectral Color
「ねぇ、七夕っていつも雨じゃない?」
瑞貴が窓の外を見て、こちらに振り向いてそう言った。今、窓の外は、静かに雨が降っている。
「まぁ、まだこれくらいの時期って梅雨だからね。今年は早く梅雨明け宣言出たけど、台風が近づいててこの天気だし」
「天の川って、ちゃんと見たことないかもなぁ……」
そう言って、彼はカーテンを閉めて俺の隣に座った。大人になってからは、七夕なんてどこかでやっているのを見かける程度のイベントになってしまった。俺の職場にも誰が始めたのかわからないけれど、短冊コーナーができていて、書きたい人が願い事を書いて小さな笹に短冊を吊るしていた。そういえば『五千兆円が欲しい』って書いてある短冊あったな……。なんて、ぼんやり考えていたら『ねぇ』と瑞貴に呼ばれる。
「織姫と彦星って、お互いが好きすぎて、ちゃんと仕事しなかったから、神様に怒られて年に一回しか会えなくなったんだっけ?」
「……まぁ、ざっくり言うとそんな感じだね」
「大昔から年に一回しか会えないってことでしょ? 冷めたりしないのかな? もう、コイツじゃなくても良くない? みたいにならないのかな?」
「あー……」
瑞貴に時々投げかけられる子供みたいな疑問。まぁ、今回はなかなか面白い。少しだけ考えて返事をする。
「普通の人なら、そうじゃない?」
「だよね」
「でもさ、俺たちだって、前は年に一回くらいしか会ってなかったじゃん」
俺がそう言うと、瑞貴が目を丸くして黙る。
こうして彼と付き合う前。幼馴染として、小さい頃から中学までは同じだった。その後はお互い別々の進路を選んだのもあり、家もちょっと離れたせいもあって、時々連絡取って会うくらいの仲だった。
「瑞貴があの大雨の日に転がり込んでくるまではそうだったじゃん」
「そうだけど……」
「別に、俺は冷めなかったけどね」
「え……?」
「次はいつ会えるかな? って思ってたよ」
「……ほんとに?」
「うん」
そう返すと、彼はほんのりと頬を染めて黙ってしまった。
「あの日、七夕でもなんでもなかったけど、イメージとしては瑞貴が天の川飛び越えて来てくれた感じ。少なくとも、俺の中が変わったのはそれからだし、その前でも、やっぱり会いたいなって思うことはあったよ」
「なっ……その……ちょっと待って」
顔を赤くして、視線があちこちに彷徨っている瑞貴。別に、素直な気持ちを述べているだけなんだけどなぁ……。
「なんか変なこと言った?」
「いや、そうじゃないけど……そんな風に思ってたの?」
「うん。瑞貴が、あの日気持ちを言ってくれるまで気づかなかったけどね。それまでは、俺、自分のことを『他人を好きになれない人間』だと思ってたから」
そう言うと、彼はパチパチと目を瞬かせた後、俺の胸に顔を埋めるようにして抱きついてきた。
「よ、よくそんなことサラッと言えるよね……僕、なんか恥ずかしくて死にそう……」
「ふふふ。俺は幸せだけどね」
「もう。そういうとこだからね」
外の雨は相変わらず降り続いていた。
きっと織姫と彦星は雲の上で会えているだろうし、なんなら七夕じゃなくても勝手に天の川を超えて会いに行ってるかもしれないな、なんて思ったらロマンも何もないんだけど……。こういう七夕の楽しみ方も悪くないよね、と顔を上げてくれない彼の頭を撫でながらそう思った。
瑞貴が窓の外を見て、こちらに振り向いてそう言った。今、窓の外は、静かに雨が降っている。
「まぁ、まだこれくらいの時期って梅雨だからね。今年は早く梅雨明け宣言出たけど、台風が近づいててこの天気だし」
「天の川って、ちゃんと見たことないかもなぁ……」
そう言って、彼はカーテンを閉めて俺の隣に座った。大人になってからは、七夕なんてどこかでやっているのを見かける程度のイベントになってしまった。俺の職場にも誰が始めたのかわからないけれど、短冊コーナーができていて、書きたい人が願い事を書いて小さな笹に短冊を吊るしていた。そういえば『五千兆円が欲しい』って書いてある短冊あったな……。なんて、ぼんやり考えていたら『ねぇ』と瑞貴に呼ばれる。
「織姫と彦星って、お互いが好きすぎて、ちゃんと仕事しなかったから、神様に怒られて年に一回しか会えなくなったんだっけ?」
「……まぁ、ざっくり言うとそんな感じだね」
「大昔から年に一回しか会えないってことでしょ? 冷めたりしないのかな? もう、コイツじゃなくても良くない? みたいにならないのかな?」
「あー……」
瑞貴に時々投げかけられる子供みたいな疑問。まぁ、今回はなかなか面白い。少しだけ考えて返事をする。
「普通の人なら、そうじゃない?」
「だよね」
「でもさ、俺たちだって、前は年に一回くらいしか会ってなかったじゃん」
俺がそう言うと、瑞貴が目を丸くして黙る。
こうして彼と付き合う前。幼馴染として、小さい頃から中学までは同じだった。その後はお互い別々の進路を選んだのもあり、家もちょっと離れたせいもあって、時々連絡取って会うくらいの仲だった。
「瑞貴があの大雨の日に転がり込んでくるまではそうだったじゃん」
「そうだけど……」
「別に、俺は冷めなかったけどね」
「え……?」
「次はいつ会えるかな? って思ってたよ」
「……ほんとに?」
「うん」
そう返すと、彼はほんのりと頬を染めて黙ってしまった。
「あの日、七夕でもなんでもなかったけど、イメージとしては瑞貴が天の川飛び越えて来てくれた感じ。少なくとも、俺の中が変わったのはそれからだし、その前でも、やっぱり会いたいなって思うことはあったよ」
「なっ……その……ちょっと待って」
顔を赤くして、視線があちこちに彷徨っている瑞貴。別に、素直な気持ちを述べているだけなんだけどなぁ……。
「なんか変なこと言った?」
「いや、そうじゃないけど……そんな風に思ってたの?」
「うん。瑞貴が、あの日気持ちを言ってくれるまで気づかなかったけどね。それまでは、俺、自分のことを『他人を好きになれない人間』だと思ってたから」
そう言うと、彼はパチパチと目を瞬かせた後、俺の胸に顔を埋めるようにして抱きついてきた。
「よ、よくそんなことサラッと言えるよね……僕、なんか恥ずかしくて死にそう……」
「ふふふ。俺は幸せだけどね」
「もう。そういうとこだからね」
外の雨は相変わらず降り続いていた。
きっと織姫と彦星は雲の上で会えているだろうし、なんなら七夕じゃなくても勝手に天の川を超えて会いに行ってるかもしれないな、なんて思ったらロマンも何もないんだけど……。こういう七夕の楽しみ方も悪くないよね、と顔を上げてくれない彼の頭を撫でながらそう思った。