Spectral Color
「じゃーん! これ、持ってきた!」
突発イベント、川でバーベキューの主催者である翔が、車のトランクから出してきたのは手持ち花火のセット。
「花火やっていいの?」
瑞貴が、片付けをしながら翔に問う。そろそろ日も暮れてきたから、お開きにしようとしていた所だったのだが、主催はまだ遊び足りないようだ。まぁ、こういうところが面白い子なんだけど。
「ここは大丈夫だよ! 花火やって帰ろうよ」
子供みたいにニコニコして花火セットを見せてくる彼。瑞貴を見ると、苦笑いしながらも『いいね。手持ち花火なんて子供の頃以来だよ』と嬉しそうにしていた。
適当な花火を手に取って、火をつけると、程なくして色とりどりの火花が勢いよく出てきた。
久しぶりの花火に、年甲斐もなく三人ではしゃいでいた。
「最近の花火は勢いあるねぇ」
「色もたくさん出てくるしね。久しぶりにやると意外と楽しいね」
俺と瑞貴でそう言うと、花火を持ってきた本人は得意気に笑った。
「楽しいでしょ? これ、海外の友達も好きだから、夏場に友達と遊ぶ時は花火やるんだ」
「あぁ、ドイツの友達?」
ドイツの音大に留学していたこともある彼は、世界のあちこちに友達がいるようで、時々、英語やドイツ語で電話している時もある。
「そうそう」
「海外にも花火くらいありそうだけど……」
瑞貴が首を傾げると、翔が終わった花火をバケツに捨ててから、新しい花火を手に取った。
「あるけど、日本以上に厳しいからこんな風には遊べないみたいだよ。わざわざ許可取らなきゃいけなかったりね」
「へぇ。これでも日本は優しい方なんだね」
「花火の中でも、海外の友達に特に人気なのはコレ」
と、翔が見せてきたのは線香花火。
「へぇ、一番地味なのに」
思っていたものと違ったんだろう。瑞貴がそう言うと、翔がムッとする。
「この子ってば、可愛い顔してなんてこと言うの! 線香花火は日本ならではの花火なんだよ。Japanese sparklersってわざわざ分けて言うくらいなんだから」
と、翔は手元で線香花火の束を解いて、一本ずつ俺と瑞貴に渡していく。
「残念だけど、もう残りの花火はこれだけだから、これやって帰ろう」
翔はそう言って、線香花火に火をつけていった。花火の先にだんだんとオレンジ色の球が出来上がり、パチパチと火花が散る。子供の頃の夏を少しだけ思い出しながら、ブルブルと震えながら火花を散らす線香花火を見つめていた。
「これ、最後まで球が落ちなかった人が勝ち、とかやったよね」
俺がそう言うと、二人が笑う。
「やったやった。僕、いつも兄さんに邪魔されて落としちゃってた」
「あ、可哀想なこと思い出させてごめんね」
「いや、別に気にしてないけど」
「オレも、今子供の頃のこと思い出してたー。姉ちゃんとよく線香花火対決したなーって。姉ちゃん、今はもう人妻だしお母さんだから、オレと花火してくれないし」
「当たり前でしょ。むしろ、お姉さんの子供と花火しなよ」
「まだ赤ちゃんだもーん」
そんなことを話していたら、俺の花火の球が落ちた。
「あ、俺の負け」
「よし、瑞貴はオレと勝負……って、あぁ!」
そう意気込んだ翔の花火の球もすぐに落ちてしまった。
「あはは……やった。最後まで残ってたの初めてだよ」
そう言って瑞貴がニコニコと笑ったところで、彼の花火も落ちてしまった。
「じゃあ、片付けて帰ろうか」
「そうだね」
散らかった花火のゴミを集めて帰り支度をすると
「ねぇ、二人とも楽しかった?」
と、今日の主催者が訊いてきた。
「うん。楽しかったよ。ありがとうね」
行く前に色々と不貞腐れていた瑞貴が、ニコリと笑ってそう言っていた。
「俺も楽しかったよ。またやろうよ」
俺がそう言うと、翔がニッコリ笑う。
「もういい大人だけど、たまには自然に触れて童心に返るのも大事だよね! また誘うね!」
こうやって、彼が持ってくる突発イベントは、都会で仕事に忙殺されている俺達には、ある種の癒やしなのかもしれないな……なんて、思ったけれど……。
「ねぇ、僕、車乗ったらちょっと寝ていい……?」
「うん、いいよ」
やっぱり引きこもりにはちょっとハードだったのかもしれない。
突発イベント、川でバーベキューの主催者である翔が、車のトランクから出してきたのは手持ち花火のセット。
「花火やっていいの?」
瑞貴が、片付けをしながら翔に問う。そろそろ日も暮れてきたから、お開きにしようとしていた所だったのだが、主催はまだ遊び足りないようだ。まぁ、こういうところが面白い子なんだけど。
「ここは大丈夫だよ! 花火やって帰ろうよ」
子供みたいにニコニコして花火セットを見せてくる彼。瑞貴を見ると、苦笑いしながらも『いいね。手持ち花火なんて子供の頃以来だよ』と嬉しそうにしていた。
適当な花火を手に取って、火をつけると、程なくして色とりどりの火花が勢いよく出てきた。
久しぶりの花火に、年甲斐もなく三人ではしゃいでいた。
「最近の花火は勢いあるねぇ」
「色もたくさん出てくるしね。久しぶりにやると意外と楽しいね」
俺と瑞貴でそう言うと、花火を持ってきた本人は得意気に笑った。
「楽しいでしょ? これ、海外の友達も好きだから、夏場に友達と遊ぶ時は花火やるんだ」
「あぁ、ドイツの友達?」
ドイツの音大に留学していたこともある彼は、世界のあちこちに友達がいるようで、時々、英語やドイツ語で電話している時もある。
「そうそう」
「海外にも花火くらいありそうだけど……」
瑞貴が首を傾げると、翔が終わった花火をバケツに捨ててから、新しい花火を手に取った。
「あるけど、日本以上に厳しいからこんな風には遊べないみたいだよ。わざわざ許可取らなきゃいけなかったりね」
「へぇ。これでも日本は優しい方なんだね」
「花火の中でも、海外の友達に特に人気なのはコレ」
と、翔が見せてきたのは線香花火。
「へぇ、一番地味なのに」
思っていたものと違ったんだろう。瑞貴がそう言うと、翔がムッとする。
「この子ってば、可愛い顔してなんてこと言うの! 線香花火は日本ならではの花火なんだよ。Japanese sparklersってわざわざ分けて言うくらいなんだから」
と、翔は手元で線香花火の束を解いて、一本ずつ俺と瑞貴に渡していく。
「残念だけど、もう残りの花火はこれだけだから、これやって帰ろう」
翔はそう言って、線香花火に火をつけていった。花火の先にだんだんとオレンジ色の球が出来上がり、パチパチと火花が散る。子供の頃の夏を少しだけ思い出しながら、ブルブルと震えながら火花を散らす線香花火を見つめていた。
「これ、最後まで球が落ちなかった人が勝ち、とかやったよね」
俺がそう言うと、二人が笑う。
「やったやった。僕、いつも兄さんに邪魔されて落としちゃってた」
「あ、可哀想なこと思い出させてごめんね」
「いや、別に気にしてないけど」
「オレも、今子供の頃のこと思い出してたー。姉ちゃんとよく線香花火対決したなーって。姉ちゃん、今はもう人妻だしお母さんだから、オレと花火してくれないし」
「当たり前でしょ。むしろ、お姉さんの子供と花火しなよ」
「まだ赤ちゃんだもーん」
そんなことを話していたら、俺の花火の球が落ちた。
「あ、俺の負け」
「よし、瑞貴はオレと勝負……って、あぁ!」
そう意気込んだ翔の花火の球もすぐに落ちてしまった。
「あはは……やった。最後まで残ってたの初めてだよ」
そう言って瑞貴がニコニコと笑ったところで、彼の花火も落ちてしまった。
「じゃあ、片付けて帰ろうか」
「そうだね」
散らかった花火のゴミを集めて帰り支度をすると
「ねぇ、二人とも楽しかった?」
と、今日の主催者が訊いてきた。
「うん。楽しかったよ。ありがとうね」
行く前に色々と不貞腐れていた瑞貴が、ニコリと笑ってそう言っていた。
「俺も楽しかったよ。またやろうよ」
俺がそう言うと、翔がニッコリ笑う。
「もういい大人だけど、たまには自然に触れて童心に返るのも大事だよね! また誘うね!」
こうやって、彼が持ってくる突発イベントは、都会で仕事に忙殺されている俺達には、ある種の癒やしなのかもしれないな……なんて、思ったけれど……。
「ねぇ、僕、車乗ったらちょっと寝ていい……?」
「うん、いいよ」
やっぱり引きこもりにはちょっとハードだったのかもしれない。