Spectral Color
安慈と一緒に暮らし始めて、少しずつ『お揃い』が増えてきた。
最初に揃えたのはキレイな色のグラスと食器。その後は服に香りをつけるサシェ。タオル類も色違いで新調したりしている。そして、色違いのルームウェア。これは、安慈のママ、マヤちゃんが彼の誕生日に送ってきたもの。
安慈の家族は、僕が彼の恋人であることは特に気にしてないらしい。むしろ、彼の妹たちが「その辺の変な女連れてくるよりも、瑞貴の方がよっぽど可愛いし安心だわ」と言っていたそうだ。ありがたいけれど、変なプレッシャーも感じるのは僕だけかな……?
今日は、久しぶりに二人で繁華街に出てきた。旅行に行くのが決まったから、必要なものを買いに出てきたのだけど、ついでだからと色々な店も見てまわっていた。
「あ……」
ふと、目に入ったネックレスのデザインに惹かれて足を止める。店の看板を見ると、時々ネットで見ていたアクセサリーのブランドだった。こんな所に店舗あったんだ。気づかなかった。……そういえば、色々お揃いのもの増えてきたけれど、一番ベタなアクセサリーって持ってない。まぁ、付けたところで色々職場で詮索されるの面倒だし、安慈もアクセサリーはこうして出掛ける時にペンダントをつけるくらいだし……。あまり必要ないのかもしれない。
「中、見る?」
僕が足を止めたことで、彼がそう訊いてきた。
「ん……入っても買えないけど……」
「買う買わないはまた別で、気になるなら見てみよう」
「でも……」
「一目惚れしたのがあったら俺が買ってあげるから」
そう言って先に店に入る安慈を、僕は慌てて追いかけた。
店内に入ると、最初のケースに表に出ていたシリーズが並んでいた。ネックレスだけでなく、ピアスやリングもある。他にも何組かお客さんがいたから、二人だけでゆっくり見られそうだ。
「これ、見てたよね。こういう流線形好き?」
「うん。シンプルだけどオシャレに見えるから。こうやって、一粒だけ石が入ってるのも好き」
ケースの中を見ながらそう言うと『そっか』と短く返される。
安慈は他のケースも見ようと、先に行ってしまった。彼は彼で興味が出てきたのなら、僕もちょっと違うの見てこようと、彼とは違うケースを見に行った。
店の奥の方のケースを見ていると、手前のケースの物よりも値段に付いてるゼロの数が増えていてちょっとびっくりしてしまった。よく見てみると、ペアリング……。
ここ、マリッジリングも取り扱ってたんだ。シンプルなデザインのもあれば、このブランドらしいカッコいいデザインのもある。二人で揃えるなら、きっとこういうのなんだろうな……。
僕は、メビウスの輪みたいなデザインがキレイだと思うけど、安慈はどうかな……? でも、付けるかな……?
「いいの見つかった?」
ぼんやりと考えていたら、後ろから声を掛けられる。振り向くと安慈も僕が見ていたケースの中を見ていた。
「気に入ったデザインあった?」
「あ……その……まだよく分からないけど……」
ここで、これがいいなんて言おうものなら『じゃあこれください』と言いかねないから、今は誤魔化しておいた。そんな僕の様子に、安慈は優しく微笑んで、そっと耳元で囁く。
「瑞貴が、どんなデザインが好きなのか教えてね。この前のプロポーズ失敗しちゃったから、次はちゃんと用意しておきたいからね」
「え……」
何か言葉を返そうにも、詰まってしまって何も出てこなかった。
固まる僕をよそに、安慈は『検討したいので』と、店員さんからカタログを貰っていた。
「行くよー」
と、何事もなかったかのようにそう声をかけてくるから、僕は慌てて彼の後をついて店を出た。
「ねぇ、アクセサリー……つけるの……?」
歩きながら、安慈にそう訊いた。
「普段はつけないけど、そういうのは別だからちゃんとつけるよ」
「……お揃い……」
「うん。一生つけるものだから、ゆっくり決めようね」
そう言って、ニコリと笑う彼。
あぁ、もう。顔の熱がひかない。このままじゃ熱中症になりそうだ。
お揃いのリングはいつになるのかな……?
こんなにも期待してしまうなんて、実は心の底ではずっと欲しかったのかもしれない。なんだか気恥ずかしいのと嬉しいのが綯い交ぜになって顔が上げられなかったから、彼のシャツの裾をちょっとだけ引っ張って歩いていくのだった。
最初に揃えたのはキレイな色のグラスと食器。その後は服に香りをつけるサシェ。タオル類も色違いで新調したりしている。そして、色違いのルームウェア。これは、安慈のママ、マヤちゃんが彼の誕生日に送ってきたもの。
安慈の家族は、僕が彼の恋人であることは特に気にしてないらしい。むしろ、彼の妹たちが「その辺の変な女連れてくるよりも、瑞貴の方がよっぽど可愛いし安心だわ」と言っていたそうだ。ありがたいけれど、変なプレッシャーも感じるのは僕だけかな……?
今日は、久しぶりに二人で繁華街に出てきた。旅行に行くのが決まったから、必要なものを買いに出てきたのだけど、ついでだからと色々な店も見てまわっていた。
「あ……」
ふと、目に入ったネックレスのデザインに惹かれて足を止める。店の看板を見ると、時々ネットで見ていたアクセサリーのブランドだった。こんな所に店舗あったんだ。気づかなかった。……そういえば、色々お揃いのもの増えてきたけれど、一番ベタなアクセサリーって持ってない。まぁ、付けたところで色々職場で詮索されるの面倒だし、安慈もアクセサリーはこうして出掛ける時にペンダントをつけるくらいだし……。あまり必要ないのかもしれない。
「中、見る?」
僕が足を止めたことで、彼がそう訊いてきた。
「ん……入っても買えないけど……」
「買う買わないはまた別で、気になるなら見てみよう」
「でも……」
「一目惚れしたのがあったら俺が買ってあげるから」
そう言って先に店に入る安慈を、僕は慌てて追いかけた。
店内に入ると、最初のケースに表に出ていたシリーズが並んでいた。ネックレスだけでなく、ピアスやリングもある。他にも何組かお客さんがいたから、二人だけでゆっくり見られそうだ。
「これ、見てたよね。こういう流線形好き?」
「うん。シンプルだけどオシャレに見えるから。こうやって、一粒だけ石が入ってるのも好き」
ケースの中を見ながらそう言うと『そっか』と短く返される。
安慈は他のケースも見ようと、先に行ってしまった。彼は彼で興味が出てきたのなら、僕もちょっと違うの見てこようと、彼とは違うケースを見に行った。
店の奥の方のケースを見ていると、手前のケースの物よりも値段に付いてるゼロの数が増えていてちょっとびっくりしてしまった。よく見てみると、ペアリング……。
ここ、マリッジリングも取り扱ってたんだ。シンプルなデザインのもあれば、このブランドらしいカッコいいデザインのもある。二人で揃えるなら、きっとこういうのなんだろうな……。
僕は、メビウスの輪みたいなデザインがキレイだと思うけど、安慈はどうかな……? でも、付けるかな……?
「いいの見つかった?」
ぼんやりと考えていたら、後ろから声を掛けられる。振り向くと安慈も僕が見ていたケースの中を見ていた。
「気に入ったデザインあった?」
「あ……その……まだよく分からないけど……」
ここで、これがいいなんて言おうものなら『じゃあこれください』と言いかねないから、今は誤魔化しておいた。そんな僕の様子に、安慈は優しく微笑んで、そっと耳元で囁く。
「瑞貴が、どんなデザインが好きなのか教えてね。この前のプロポーズ失敗しちゃったから、次はちゃんと用意しておきたいからね」
「え……」
何か言葉を返そうにも、詰まってしまって何も出てこなかった。
固まる僕をよそに、安慈は『検討したいので』と、店員さんからカタログを貰っていた。
「行くよー」
と、何事もなかったかのようにそう声をかけてくるから、僕は慌てて彼の後をついて店を出た。
「ねぇ、アクセサリー……つけるの……?」
歩きながら、安慈にそう訊いた。
「普段はつけないけど、そういうのは別だからちゃんとつけるよ」
「……お揃い……」
「うん。一生つけるものだから、ゆっくり決めようね」
そう言って、ニコリと笑う彼。
あぁ、もう。顔の熱がひかない。このままじゃ熱中症になりそうだ。
お揃いのリングはいつになるのかな……?
こんなにも期待してしまうなんて、実は心の底ではずっと欲しかったのかもしれない。なんだか気恥ずかしいのと嬉しいのが綯い交ぜになって顔が上げられなかったから、彼のシャツの裾をちょっとだけ引っ張って歩いていくのだった。