Spectral Color
ポストを開けると、菫色の封筒が目に入る。
「あっ……」
俺宛のその封筒は、ずっと届くのを待っていた手紙。
一緒に投函されていた余計なチラシは、いつもならポストの側に置いてあるゴミ箱に捨ててくるのだけれど、手紙を早く開けたくて全部まとめて持ってきてしまった。
家に入ってから、いつものルーティンを済ませる。逸る気持ちを抑えながら、菫色の封筒をハサミで丁寧に開けて、中の手紙を取り出した。
これは、少し前に俺が瑞貴に書いてと強請った手紙。何を書いてくれたのか……ちょっとだけ緊張しながら手紙を広げると、彼の書く、華奢で綺麗な字が並んでいた。
『安慈へ
誕生日おめでとう。
手紙自体を書くのも久しぶりで、何を書いたらいいか悩んでいたら遅くなっちゃった。ちなみに、これは仕事の休憩中に書いてます。家で書いたら楽しみが減るかなと思って。こうして一緒にいるようになって、まだそんなに経ってないけれど、僕は毎日幸せです。』
『仕事が大変でも、同僚が仕事押し付けてきてイライラしても、父さんと折り合いが悪くて喧嘩しても、安慈が僕を受け止めてくれるから、前よりもずっと気持ちが楽です。
あの時、合鍵と一緒に、俺が瑞貴の居場所になればいい、と言ってくれたのがすごく嬉しかったです。今思えば、あの時思い切って好きだと伝えて良かったなって。
一緒に暮らし始めてからも、安慈のちょっとリラックスした姿を見られて、これは僕しか知らないんだと思うとちょっと嬉しくなってます。あ、でもそれは安慈も一緒かな?
これからも、僕と一緒にいてくれると嬉しいです。二人で、たくさん、色んな所に行こうね。僕の居場所になってくれてありがとう。大好き。』
読み終えたタイミングで、ドアの鍵が開く音がした。顔を上げると瑞貴が『暑い暑い』と呟きながら入ってきたところだった。
「あ、ただいま」
俺は、ニコリと笑ってそう言った瑞貴に駆け寄って、そのまま彼を抱き締めた。
「わぁっ、どうしたの? 急に」
「……おかえり」
「う、うん。ただいま。ねぇ、どうしたの?」
彼が俺の腕を緩めようと身動ぎすると、カサッと音がする。彼の肩に、俺が持っていた手紙が当たってしまったのだ。
「え? あ、手紙! 読んだの?」
彼の言葉に、俺は頷くことしかできなかった。嬉しいのと気恥ずかしいのとで、何故か泣きそうだし、顔は熱いし。あぁ、なんて言おう。色々な言葉がぐるぐると頭の中を巡っていく。
「瑞貴……」
「なぁに?」
「…………結婚して」
「はぁっ⁉︎」
瑞貴らしくない返答に驚いて離れると、瑞貴が真っ赤な顔で狼狽えている。
「なっ、そ、それ手紙読んだ感想⁉︎」
「読んだ感想といえばそうだけど……なんて言ったらいいか分からなくて……まとめたらそうなった」
「だからって、こんなムードも何もないタイミングでプロポーズしないでよ!」
「あ……」
「もー! ほんと、そういうとこ!」
顔を真っ赤にして、ぷりぷり怒りながら瑞貴は部屋の中へ行ってしまった。あー……しまった。怒らせちゃった。
「瑞貴ぃ……」
彼の背中に、そっと呼びかけると、少しだけこちらに振り向いてくれた。
「……手紙……喜んでもらえたかな?」
「うん! ありがとう。すごく嬉しい」
「なら、良かった」
そう言って瑞貴が頬を染めたままニコリと笑った。その笑顔に愛おしさが込み上げてきて、彼を背中から抱き締める。
「瑞貴、大好き」
「うん。……結婚してって言うけどさ、もう結婚してるようなもんじゃないの? 今更、捨てられても僕困るよ?」
「確かにそうだけど……。もう、瑞貴もちゃんと返事してよ」
色々とグダグダになってしまい、恥ずかしさの方が優ってついそう言ってしまった。
「ふふふ。今のはノーカウントだよ。ちゃんと正式なプロポーズしてくれたら返事する」
「もう、意地悪だなぁ」
腕の中で彼がケラケラと笑う。そんなところも可愛くて愛おしい……。そう思って、彼をもう一度抱き締めた。
今回、ほんの思いつきで手紙を強請ったのだけど、想像以上の破壊力だったから、今度からは安易に強請るのはやめようと思う……。
「あっ……」
俺宛のその封筒は、ずっと届くのを待っていた手紙。
一緒に投函されていた余計なチラシは、いつもならポストの側に置いてあるゴミ箱に捨ててくるのだけれど、手紙を早く開けたくて全部まとめて持ってきてしまった。
家に入ってから、いつものルーティンを済ませる。逸る気持ちを抑えながら、菫色の封筒をハサミで丁寧に開けて、中の手紙を取り出した。
これは、少し前に俺が瑞貴に書いてと強請った手紙。何を書いてくれたのか……ちょっとだけ緊張しながら手紙を広げると、彼の書く、華奢で綺麗な字が並んでいた。
『安慈へ
誕生日おめでとう。
手紙自体を書くのも久しぶりで、何を書いたらいいか悩んでいたら遅くなっちゃった。ちなみに、これは仕事の休憩中に書いてます。家で書いたら楽しみが減るかなと思って。こうして一緒にいるようになって、まだそんなに経ってないけれど、僕は毎日幸せです。』
『仕事が大変でも、同僚が仕事押し付けてきてイライラしても、父さんと折り合いが悪くて喧嘩しても、安慈が僕を受け止めてくれるから、前よりもずっと気持ちが楽です。
あの時、合鍵と一緒に、俺が瑞貴の居場所になればいい、と言ってくれたのがすごく嬉しかったです。今思えば、あの時思い切って好きだと伝えて良かったなって。
一緒に暮らし始めてからも、安慈のちょっとリラックスした姿を見られて、これは僕しか知らないんだと思うとちょっと嬉しくなってます。あ、でもそれは安慈も一緒かな?
これからも、僕と一緒にいてくれると嬉しいです。二人で、たくさん、色んな所に行こうね。僕の居場所になってくれてありがとう。大好き。』
読み終えたタイミングで、ドアの鍵が開く音がした。顔を上げると瑞貴が『暑い暑い』と呟きながら入ってきたところだった。
「あ、ただいま」
俺は、ニコリと笑ってそう言った瑞貴に駆け寄って、そのまま彼を抱き締めた。
「わぁっ、どうしたの? 急に」
「……おかえり」
「う、うん。ただいま。ねぇ、どうしたの?」
彼が俺の腕を緩めようと身動ぎすると、カサッと音がする。彼の肩に、俺が持っていた手紙が当たってしまったのだ。
「え? あ、手紙! 読んだの?」
彼の言葉に、俺は頷くことしかできなかった。嬉しいのと気恥ずかしいのとで、何故か泣きそうだし、顔は熱いし。あぁ、なんて言おう。色々な言葉がぐるぐると頭の中を巡っていく。
「瑞貴……」
「なぁに?」
「…………結婚して」
「はぁっ⁉︎」
瑞貴らしくない返答に驚いて離れると、瑞貴が真っ赤な顔で狼狽えている。
「なっ、そ、それ手紙読んだ感想⁉︎」
「読んだ感想といえばそうだけど……なんて言ったらいいか分からなくて……まとめたらそうなった」
「だからって、こんなムードも何もないタイミングでプロポーズしないでよ!」
「あ……」
「もー! ほんと、そういうとこ!」
顔を真っ赤にして、ぷりぷり怒りながら瑞貴は部屋の中へ行ってしまった。あー……しまった。怒らせちゃった。
「瑞貴ぃ……」
彼の背中に、そっと呼びかけると、少しだけこちらに振り向いてくれた。
「……手紙……喜んでもらえたかな?」
「うん! ありがとう。すごく嬉しい」
「なら、良かった」
そう言って瑞貴が頬を染めたままニコリと笑った。その笑顔に愛おしさが込み上げてきて、彼を背中から抱き締める。
「瑞貴、大好き」
「うん。……結婚してって言うけどさ、もう結婚してるようなもんじゃないの? 今更、捨てられても僕困るよ?」
「確かにそうだけど……。もう、瑞貴もちゃんと返事してよ」
色々とグダグダになってしまい、恥ずかしさの方が優ってついそう言ってしまった。
「ふふふ。今のはノーカウントだよ。ちゃんと正式なプロポーズしてくれたら返事する」
「もう、意地悪だなぁ」
腕の中で彼がケラケラと笑う。そんなところも可愛くて愛おしい……。そう思って、彼をもう一度抱き締めた。
今回、ほんの思いつきで手紙を強請ったのだけど、想像以上の破壊力だったから、今度からは安易に強請るのはやめようと思う……。