今日も仕事を終えて帰宅する。少し残業をしたから、いつもより遅くなってしまった。瑞貴も少し遅くなったとメッセージで言っていたけれど、もう先に帰っているようだった。

「ただいま。遅くなってごめんね」
「おかえり。ううん。僕も帰ってきてやっと落ち着いたところだよ」
　そう言って、ぎゅっと抱きついてくる彼に癒される。
　家に着いてからも、やることはたくさんあって何かと忙しい。夕飯を食べたら、シャワーを済ませたり、家事も片付けたり……。全部終わる頃にはそろそろ寝ないといけない。

「うーん……せっかく一緒にいるのに全然ゆっくりできないね」
　ベッドに入りながらそう愚痴を溢すと、先にベッドにいた瑞貴が苦笑いする。
「仕事があった日は仕方ないよね。残業しちゃうと余計に」
「単なる体感だけど、夏は夜が短いから、なんか一緒に過ごす時間が短く感じる……」
　そう言って、瑞貴を抱き寄せると、背中に彼の腕がまわされた。
「うん。朝方目を覚ますと明るいもんね。もう朝かぁ、仕事かぁってなるよね」
「そうそう。こうしてると幸せなんだけど、疲れて寝ちゃうし……余計に一日が短く感じる」
　そう言って彼の額に自分の額を合わせる。今日は、なんだか彼に甘えている自覚がある。まぁ、たまにはいいか……。
「ふふふ。安慈がグダグダしてるの珍しい。可愛い」
　瑞貴が笑いながら俺の髪を撫でるように手で梳いていく。
「んー……俺にも癒しが必要な時があります」
「ふふふ。夜が短いのは変えられないから、その分濃い時間にしたらいいんだよ……一緒に住む前の頃みたいにね」
「瑞貴……」
「恋人達にはこういう時間も大事でしょ？」
　瑞貴はそう言って、俺の頬にそっと触れて顔を近づけてきた。
　ほんのりと頬を染めて、長い睫毛に縁取られた赤茶色の潤んだ瞳が俺を真っ直ぐ見つめている。
「瑞貴……」
　名前を呼んで、頬に触れると彼が嬉しそうに笑う。
「ねぇ、知ってた？」
「ん？」
「キスはストレスを軽減するんだって」
「へぇ、知らなかった。じゃあ、夜が明けるまでする？」
　そう言いながら、彼を仰向けにして覆いかぶさる。
「ふふふ。そう考えると、夜は長いね」
　そう言って笑った彼の手を握って、そっと唇を重ねた。