Spectral Color
「洗濯物、もう乾いたよ」
今日も眩しいくらいの快晴。気温も高くて、ベランダで洗濯物を取り込むだけでもじんわりと汗をかいてしまうくらいだ。今朝干した洗濯物は、夕方を待たずにもう乾いていたので、さっさと取り込む。暑いのは苦手だけれど、洗濯物が気持ち良く乾くのは嬉しい。
「あ、安慈ー。見てー。入道雲」
洗濯物を両腕に抱えながら空を見れば、絵に描いたような入道雲が浮かんでいた。
僕の呼びかけに、安慈はベランダに顔を出した。
「ほんとだ。早く買い物行った方がいいかもね」
「え?」
「アレがこっちに来たら、すごい雨降るかもしれないから」
「あ、そっか。洗濯物取り込んで良かった」
部屋の中へと戻り、取り込んだ洗濯物を二人で畳んでしまってから買い物へ出かけた。
歩きながら空をチラッと見たけれど、大雨が降るようには思えない晴天だった。
なのに。
買い物を終えて、スーパーを出ると外の色がおかしい。燻んだ黄色に染まっている。夕立前のあの色だ。
「ちょっとゆっくりしすぎちゃったかなぁ……。降りそう」
「まだ降ってないけど……」
「ここで待ってても荷物重いしね……」
「降られないで帰れるか、天気と勝負だね」
ニコリと笑って歩きだす安慈の後をついて行く。ちょっと急げば十分もかからない場所だから、雨が降る前には間に合うんじゃないかな? 僕達は、少しだけ歩くスピードを上げた。
「あっ……」
暫くすると、顔に雨粒が当たった。
「これ、間に合うかなぁ? 洗濯物取り込んでくれたのホント助かったぁ」
笑いながら安慈がそう言った。
「僕、優秀でしょ? でも、間に合いそうにないねぇ」
そうこうしているうちに、ザァッと大粒の雨が降り出して、僕達は慌てて屋根がある場所に避難した。あの一瞬で、あっという間にびしょ濡れになってしまった。濡れて張り付くシャツが気持ち悪い……。
「残念、天気に負けたね」
安慈が苦笑いしてそう言った。毛先からポタポタと水が垂れているのが鬱陶しいのか、髪を手でバサバサと散らしてから、前髪を後ろにかき上げていた。
彼の様子を見ていて、前髪上げてるのも新鮮でいいな……なんて、ちょっと思っていた。
「ね。あとちょっとなのにね」
「こういう雨、瑞貴がうちに転がりこんできた日を思い出しちゃう」
「あれは……」
何で家を飛び出したのかはもう覚えてないのだけど、多分許せないくらい理不尽なことを言われて出ていったあの日。暫く会ってなかったのに、あの時、何故か安慈のことを思い出して、そのまま彼の家へ逃げた。
「あの時、なんでびしょびしょだったんだっけ?」
「途中で降ったんだよ。色々悔しくてそのまま来たの」
「そっか」
僕の返しに小さく笑う彼。
雨はまだ大粒で、地面に薄っすらと水溜まりを作っている。空は少しずつ明るさを取り戻しているから、きっとすぐ止むと思う。
「でも、ああやって瑞貴が来てくれなかったら、今、二人でこうしてないよね」
「え?」
「あの時、俺のこと思い出してくれて良かったなって。こういう雨見ると思い出しちゃって」
「安慈……」
「あ、雨弱くなってきたね。行こうか」
そう言って、彼は歩き出した。
「うん」
彼の後を追ってそっと腕を取ると、彼は僕の方を向いて微笑んだ。
「帰ったら、まずシャワーだね」
「アイスしまってからね」
「あぁ、そうだった。早く帰らなきゃ」
雨は弱くなったけれど、二人で足早に家に向かう。
僕は雨嫌いだったけれど、彼がそう言うなら悪くないな、なんて少しだけ嬉しく思っていた。
今日も眩しいくらいの快晴。気温も高くて、ベランダで洗濯物を取り込むだけでもじんわりと汗をかいてしまうくらいだ。今朝干した洗濯物は、夕方を待たずにもう乾いていたので、さっさと取り込む。暑いのは苦手だけれど、洗濯物が気持ち良く乾くのは嬉しい。
「あ、安慈ー。見てー。入道雲」
洗濯物を両腕に抱えながら空を見れば、絵に描いたような入道雲が浮かんでいた。
僕の呼びかけに、安慈はベランダに顔を出した。
「ほんとだ。早く買い物行った方がいいかもね」
「え?」
「アレがこっちに来たら、すごい雨降るかもしれないから」
「あ、そっか。洗濯物取り込んで良かった」
部屋の中へと戻り、取り込んだ洗濯物を二人で畳んでしまってから買い物へ出かけた。
歩きながら空をチラッと見たけれど、大雨が降るようには思えない晴天だった。
なのに。
買い物を終えて、スーパーを出ると外の色がおかしい。燻んだ黄色に染まっている。夕立前のあの色だ。
「ちょっとゆっくりしすぎちゃったかなぁ……。降りそう」
「まだ降ってないけど……」
「ここで待ってても荷物重いしね……」
「降られないで帰れるか、天気と勝負だね」
ニコリと笑って歩きだす安慈の後をついて行く。ちょっと急げば十分もかからない場所だから、雨が降る前には間に合うんじゃないかな? 僕達は、少しだけ歩くスピードを上げた。
「あっ……」
暫くすると、顔に雨粒が当たった。
「これ、間に合うかなぁ? 洗濯物取り込んでくれたのホント助かったぁ」
笑いながら安慈がそう言った。
「僕、優秀でしょ? でも、間に合いそうにないねぇ」
そうこうしているうちに、ザァッと大粒の雨が降り出して、僕達は慌てて屋根がある場所に避難した。あの一瞬で、あっという間にびしょ濡れになってしまった。濡れて張り付くシャツが気持ち悪い……。
「残念、天気に負けたね」
安慈が苦笑いしてそう言った。毛先からポタポタと水が垂れているのが鬱陶しいのか、髪を手でバサバサと散らしてから、前髪を後ろにかき上げていた。
彼の様子を見ていて、前髪上げてるのも新鮮でいいな……なんて、ちょっと思っていた。
「ね。あとちょっとなのにね」
「こういう雨、瑞貴がうちに転がりこんできた日を思い出しちゃう」
「あれは……」
何で家を飛び出したのかはもう覚えてないのだけど、多分許せないくらい理不尽なことを言われて出ていったあの日。暫く会ってなかったのに、あの時、何故か安慈のことを思い出して、そのまま彼の家へ逃げた。
「あの時、なんでびしょびしょだったんだっけ?」
「途中で降ったんだよ。色々悔しくてそのまま来たの」
「そっか」
僕の返しに小さく笑う彼。
雨はまだ大粒で、地面に薄っすらと水溜まりを作っている。空は少しずつ明るさを取り戻しているから、きっとすぐ止むと思う。
「でも、ああやって瑞貴が来てくれなかったら、今、二人でこうしてないよね」
「え?」
「あの時、俺のこと思い出してくれて良かったなって。こういう雨見ると思い出しちゃって」
「安慈……」
「あ、雨弱くなってきたね。行こうか」
そう言って、彼は歩き出した。
「うん」
彼の後を追ってそっと腕を取ると、彼は僕の方を向いて微笑んだ。
「帰ったら、まずシャワーだね」
「アイスしまってからね」
「あぁ、そうだった。早く帰らなきゃ」
雨は弱くなったけれど、二人で足早に家に向かう。
僕は雨嫌いだったけれど、彼がそう言うなら悪くないな、なんて少しだけ嬉しく思っていた。