Spectral Color
世間でいう連休には、休みが取りにくい瑞貴に合わせて、平日に誕生日休暇と称して有給休暇をしっかり入れた俺。
今日は、いつもよりゆっくり起きて、いつもよりゆっくり家を出て彼と向かった先は水族館。
この季節は、夕方になると館内の照明を少し落とした演出をしている。平日の夕方は人も少なくなるし、落ち着いて見られるからと瑞貴が提案してくれた。
「こうやって照明を落としてるのもいいね」
「うん。水槽の中がいつもよりよく見えるね」
「今日はね、この近くのレストランを予約したんだ。前々から気になってたところ」
「え? あの海岸沿いの道のところ?」
「そうそう。あそこ評判いいみたいなんだ。楽しみにしてて」
ニコニコと機嫌良さそうに話す瑞貴。『今日は安慈の誕生日デートだから』と、色々考えてくれているようだ。
水槽の中の色鮮やかな魚たちをゆっくり見たり、瑞貴のお気に入りのクラゲエリアは結構長い時間いたと思う。ふわふわと漂うクラゲ達は、見ているだけで、心が落ち着いてくる。
照明を落とした水族館の中は、青の世界だった。
暫く歩いて辿り着いた大きな筒状の水槽は、まるで海の底から上を見上げているような美しさだった。暫く見ていたいかも、と思ったのは俺だけではなかったようで、通り道に邪魔にならないように二人で水槽の端の方へと寄った。
深い青の中を、優雅にゆったりと泳いでいく魚達。小さな魚の群れは、光を体に受けてキラキラと静かに光る。まるで星みたいだ。
「なんか深海から見てるみたいだね」
「上の灯り、照明だって分かってるけど、月明かりみたいでなんだか綺麗……」
ぼんやりと、そしてどこか恍惚として水槽の中を見ていると目の前を大きなエイが横切っていった。
「あいつ、気持ち良さそうに泳ぐなぁ……」
「ねぇ、やっぱり海って還るところなのかな……?」
「どうしてそう思うの?」
水槽を見つめたままそう言ってきた瑞貴に、俺は先ほどの言葉を返した。
「ん……この青い世界、すごく心地良いから……」
「うん……俺もそう思ってた。この深い青に包まれてるのが、なんか落ち着く」
「命が生まれたのが海なら、死んで還る場所も海なのかな……だから、こんな風に落ち着くのかな……」
「そうかも知れないね」
そんな風に思わせるのは、この光の少ない青い世界だからだろうか……。現実から遠く離れた幻想的な場所にも思える。
「ずっと、こういう綺麗な場所にいたいなって思うけど、きっとすぐ元の世界に戻りたくなるんだろうね」
そう言って、瑞貴がそっと体を寄せてくる。人が多いところでやるなんて珍しい、と辺りを見ると、周りにいた人たちはいつの間にかいなくなっていた。同じ水槽にずっと張り付いて見ている方が珍しいか。
「こういう綺麗な世界でも、コンクリートに囲まれた冷たい世界でも、俺は二人でいられればどこでもいいけどね」
「え……?」
頬をほんのり染めてこちらを見上げた彼の唇に触れるだけのキスを落とした。
「っ! ちょっと! あぶない! 見られる!」
「魚しか見てないよ。魚も見てないかもしれない」
「もう、そういう問題じゃなくて……」
「ふふ。ずっとここを見ててもいいけど、閉館までに見終わらないから、そろそろ行こうか」
恥ずかしそうに俯いた彼の肩をそっと押して、先へ進んだ。
「もし、死んで海に還るなら……」
「ん?」
「二人で一緒がいいな……」
「そうだね」
君がいれば何処でも天国だと思っているけれど、もし何処かに閉じ込められてしまうなら、深い海の底がいいな……。
君と二人、深い青の中に溶けてしまおうか。
そんなことを考えながら、青い世界を二人で巡るのだった。
今日は、いつもよりゆっくり起きて、いつもよりゆっくり家を出て彼と向かった先は水族館。
この季節は、夕方になると館内の照明を少し落とした演出をしている。平日の夕方は人も少なくなるし、落ち着いて見られるからと瑞貴が提案してくれた。
「こうやって照明を落としてるのもいいね」
「うん。水槽の中がいつもよりよく見えるね」
「今日はね、この近くのレストランを予約したんだ。前々から気になってたところ」
「え? あの海岸沿いの道のところ?」
「そうそう。あそこ評判いいみたいなんだ。楽しみにしてて」
ニコニコと機嫌良さそうに話す瑞貴。『今日は安慈の誕生日デートだから』と、色々考えてくれているようだ。
水槽の中の色鮮やかな魚たちをゆっくり見たり、瑞貴のお気に入りのクラゲエリアは結構長い時間いたと思う。ふわふわと漂うクラゲ達は、見ているだけで、心が落ち着いてくる。
照明を落とした水族館の中は、青の世界だった。
暫く歩いて辿り着いた大きな筒状の水槽は、まるで海の底から上を見上げているような美しさだった。暫く見ていたいかも、と思ったのは俺だけではなかったようで、通り道に邪魔にならないように二人で水槽の端の方へと寄った。
深い青の中を、優雅にゆったりと泳いでいく魚達。小さな魚の群れは、光を体に受けてキラキラと静かに光る。まるで星みたいだ。
「なんか深海から見てるみたいだね」
「上の灯り、照明だって分かってるけど、月明かりみたいでなんだか綺麗……」
ぼんやりと、そしてどこか恍惚として水槽の中を見ていると目の前を大きなエイが横切っていった。
「あいつ、気持ち良さそうに泳ぐなぁ……」
「ねぇ、やっぱり海って還るところなのかな……?」
「どうしてそう思うの?」
水槽を見つめたままそう言ってきた瑞貴に、俺は先ほどの言葉を返した。
「ん……この青い世界、すごく心地良いから……」
「うん……俺もそう思ってた。この深い青に包まれてるのが、なんか落ち着く」
「命が生まれたのが海なら、死んで還る場所も海なのかな……だから、こんな風に落ち着くのかな……」
「そうかも知れないね」
そんな風に思わせるのは、この光の少ない青い世界だからだろうか……。現実から遠く離れた幻想的な場所にも思える。
「ずっと、こういう綺麗な場所にいたいなって思うけど、きっとすぐ元の世界に戻りたくなるんだろうね」
そう言って、瑞貴がそっと体を寄せてくる。人が多いところでやるなんて珍しい、と辺りを見ると、周りにいた人たちはいつの間にかいなくなっていた。同じ水槽にずっと張り付いて見ている方が珍しいか。
「こういう綺麗な世界でも、コンクリートに囲まれた冷たい世界でも、俺は二人でいられればどこでもいいけどね」
「え……?」
頬をほんのり染めてこちらを見上げた彼の唇に触れるだけのキスを落とした。
「っ! ちょっと! あぶない! 見られる!」
「魚しか見てないよ。魚も見てないかもしれない」
「もう、そういう問題じゃなくて……」
「ふふ。ずっとここを見ててもいいけど、閉館までに見終わらないから、そろそろ行こうか」
恥ずかしそうに俯いた彼の肩をそっと押して、先へ進んだ。
「もし、死んで海に還るなら……」
「ん?」
「二人で一緒がいいな……」
「そうだね」
君がいれば何処でも天国だと思っているけれど、もし何処かに閉じ込められてしまうなら、深い海の底がいいな……。
君と二人、深い青の中に溶けてしまおうか。
そんなことを考えながら、青い世界を二人で巡るのだった。