Spectral Color

 ポストから取ってきた郵便物の中に、通っていた歯医者の定期検診を知らせるハガキが入っていた。何気なく見たら、切手が有名なイラストレーターの絵柄でちょっと可愛かった。
「最近の切手ってオシャレだよね。可愛いのいっぱいある」
ほら、とソファに掛けていた安慈に見せると『ほんとだ』と返ってきた。
「今、何でもメールで済ませちゃうからねぇ。せっかく可愛い切手あっても、個人的な手紙なんて書かなくなっちゃったな……」
「そうだよね。手書きの手紙、なかなかもらう機会ないよね」
「瑞貴はメモだけど、手紙投げてくれるじゃん」
「あれはもうやりません」
そう言って、彼の隣に座る。
以前、彼の持ち帰り仕事を邪魔した時に、色々と文句を書いたメモを紙飛行機にしてデスクに投げたのだ。あのメモを、安慈は大事に取っておいているのだ。恥ずかしいから捨ててと何度も言ったのだけど、これだけは聞いてくれない。
「瑞貴の字、綺麗だから好きなんだよね」
「そう? まぁ、字は綺麗に書きなさいってどっちも厳しかったから、うちの家族は、みんな字が綺麗だよ」
「へぇ。あ、そうだ」
安慈がそう言ってキラキラした眼差しを向けてくる。
「どうしたの?」
「手紙、書いてよ」
「え? 安慈に?」
「そう。可愛い切手も貼って、送って」
「えぇ? 一緒に住んでるのに?」
「だって、メモは残しておくと怒るじゃん。手紙なら怒らないでしょ?」
「それなら、わざわざ送らなくても……」
「家に届くのがいいんじゃん」
「えぇー……」
 安慈が珍しく変なわがままを言っている。手書きの手紙が欲しい気持ちは分からないでもないけれど、そこまでして欲しいものかな……?
「あ。分かった。俺、誕生日プレゼントそれがいい」
「え? そんなのでいいの?」
もうすぐ、安慈の誕生日。一緒に出かけるのは前々から決めていたけれど、プレゼントはその時に一緒に選ぼうとしていた。

「でも……それだけじゃ寂しいからちゃんと出かけた時に一緒に選ぼうよ」
「今、そこまで欲しいものないんだよね……。それなら瑞貴からのラブレターの方が嬉しい」
「なっ! ラブレター書くなんて言ってないよ!」
「えー? ラブレターじゃないの?」
「もう!」
こうやってすぐ揶揄ってくるのは相変わらずだけど、普段、安慈に言えないことを手紙にするのも悪くないかもな……。
「……明日、ちょっと帰るの遅くなる」
「え?」
「レターセットと切手、買ってくるから」
僕がそう言うと、安慈がニコリと笑って、僕をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。楽しみにしてる」
「うん。楽しみにしてて」

 さて、何を書こうか? せっかくだから、たくさん書いてあげよう。気がつけば、僕も手紙を書くことが楽しみになっているのだった。
13/31ページ
スキ