Spectral Color

「これ、お土産ー!」
今日もコイツは良く言えば元気いっぱい。悪く言えばうるさい。そしてお土産で持って来たのは、小玉すいか一玉。大玉でなかったのが救いだ。
「すいかなんてどうしたの?」
ものすごく冷静に翔に問う安慈。まず、すいかがお土産ということに戸惑わないの?
「家に帰ったら、ばあちゃん家から送られてきたみたいで。この小玉すいかゴロゴロしてたんだよね。姉ちゃんの家にも送ったみたいだけど、食べきれないから、お友達と食べたら? って渡された」
「あぁ、そうなんだ。それなら、みんなで食べようか」
ニコニコと翔からすいかを受け取る安慈。彼はそのまま冷蔵庫の野菜庫にしまっていた。僕と翔は、リビングに移動してソファに掛けた。

「せっかく玉でもらったから、すいか割りしたいなーって思ってたんだけど……」
「家の中ではやめて」
僕は翔の言葉に、速攻で止めた。
「家の中ではやらないよー」
「翔のことだから、シート敷けばできるとか言いそうだからダメ」
「あ、それもアリだね」
「アリじゃないよ!」
ケラケラと笑う翔に溜息をついていると、安慈がキッチンから戻ってくる。
「ねぇ、翔。飲み残しのウォッカもらっていい?」
「え? いいよ。今から飲むの?」
翔と同様に、僕も目を丸くする。安慈は、こんな昼間からウォッカ煽るようなキャラだっけ?
「違う違う。俺が飲むんじゃなくて、すいか」
すいか?
気になって、みんなでキッチンに行く。先ほど冷蔵庫にしまわれたと思っていたスイカは、今、ボウルにすっぽりはまって鎮座している。
「すいかの美味しい食べ方調べてたらさ、面白そうなのがあって……」
そう言って、スイカの上の方に包丁で三センチ四方位の穴を開けていく安慈。そこに、翔が前に家に置いて行ったウォッカの瓶の口を挿した。
「わ、ほんとにすいかに飲ませてる」
「ウォッカの残りもちょうど良さそうだったから、このまま四、五時間置いておきます。冷蔵庫入れておくね」
ウォッカのボトルを煽るすいかは、ボウルごと野菜庫にしまわれていった。
「よし、すいかの仕込みはできたから買い出しに行こうか」

 ***

 あれから、買い物を終えて戻ってきた僕達は、早めの時間からのパーティー。テレビはメジャーリーグの試合を流している。翔がたまに観るらしい。今日はホットプレートで餃子焼いたり、肉焼いたりと作りながら楽しく呑んでいた。
「あ、そろそろアレ持ってこようか」
そう言って、安慈が席を立った。
「手伝おうか?」
慌てて、彼の後を追ってキッチンに入ると、安慈は先ほどのウォッカを煽るすいかを取り出していた。
「座ってても良いよ」
「安慈ばっかり動かすわけにはいかないよ」
「そう?」
お酒が入っているせいか、いつもより柔らかく笑った安慈が、ちょっと可愛く見えたというのは黙っておく。
「お、結構飲みましたね。すいかくん」
小さいボトルの半分くらいしかなかったとは言え、中身のウォッカはほぼ空になっていた。 
安慈はそのボトルを外して、包丁を入れる。真っ二つに綺麗に切れたすいかは、お酒を染み込ませたせいなのか、普通のすいかよりも瑞々しく見えた。
「なんか美味しそう」
「ちょっと味見しようか」
安慈は、手際良くサクサクとすいかを切っていく。そのうちの一切れの、一番先端の甘いところを切ると、僕の口に放り込んだ。
「んっ……美味しい……わぁ、これ後からくるね」
すいかの甘みと水分がとてもジューシーで美味しいところに、ウォッカのアルコールが後からくる。甘くて美味しいお酒。でもこれは悪酔いする。
「ほんと? ……おぉ、ホントだ。美味しいけど食べすぎ注意だね」
「でしょ?」
食べやすく切った方は皿に並べて、残った半分はラップして冷蔵庫へしまってから、二人で翔のいるリビングへ戻る。

「翔ー。おやつだよ!」
「おやつ!」
おやつという言葉に目を輝かせる翔。子供みたいだなぁ。
「翔の持ってきたすいか、酔っ払ってるよ」
「えー。酔っ払いすいか美味しい?」
「美味しいよ」
安慈の言葉に、翔はすいかを一切れ手に取って齧った。
「わー! 美味しいー! けど、ウォッカめっちゃ効いてるー!」
「でしょー? 食べすぎないでね。悪酔いするよ」
「すいか持ってきてよかったー。すいか割りしなくて良かったー」
ニコニコとしてるのは翔も酔っ払っているからだろうか。でも、楽しいからいいか。
「ねぇ。これ、果肉だけ切ってグラスに入れてソーダ割とかも美味しいんじゃん?」
「安慈、天才! それやろう!」
「あ、それ、僕も飲むー」
「ハイハイ。ちょっと待ってね」

 子供の頃、何故かすいかがあるとテンション上がったのは、すいかも夏のアイテムだからなのかな……? 
もういい歳なのに、すいかひとつでこんなに楽しくなるなんて。

「スイカいっぱい入れたら濃いめ?」
「真ん中が一番吸ってるから、美味しいところが一番酔うよ」
「そこばっかり入れたら濃いめ?」
「ちょっと、美味しいところばっかり持っていかないで」

……まぁ、子供の頃と違って、楽しみ方が可愛くなくなったけれどね。
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