Achromatic

「あー……雨……だるい……」
せっかくの休日が大雨になってしまった。どこにも出掛けられず、不貞腐れているのか、気圧でだるいのか、瑞貴がベッドに横になっていた。
「うん。もう、それ三回目。俺のことは構わないでいいから、寝てなよ」
俺は本を片手にベッドに掛けてそう返す。
外は、真っ白に煙るくらいの大雨。雨音も激しくて、心底休みで良かったと思った。
怠いと横になっている彼の気持ちも分かる。こんな天気じゃ何もやる気が起きない。
「……やだ。寝たら勿体ない気がする」
「じゃあ、何かする?」
「何かって、何?」
何? と問われて俺も特に考えていたわけではない。彼が寝てしまうのなら、本でも読もうかと思っていたけれど。

「じゃあ、ゲームする?」
「んー……ゲームの気分じゃない」
「映画見る?」
「……観たいの思いつかないなぁ」
「このワガママめ。それならもう寝なさい」
「やだー」
仰向けに寝ていた彼がそう言ってタオルケットを抱えて壁の方を向いてうずくまる。もはや、ただの駄々っ子だ。
「もー……じゃぁ、どうする? 一緒に横になっていようか?」
そう言ってデスクに本を置いてから、彼の横に寝そべり、背中を向ける彼を抱き締めた。それはそれで良かったのか、彼は俺の腕に触れながら暫く黙っていた。
ウトウトしてきたかな……? と思いながら、そっと彼を抱き直して頸にキスを落とすと、彼の肩が跳ねた。
「あれ。びっくりした? ごめんね」
「ううん……。ねぇ、やりたいこと思いついた」
俺の腕の中で器用に寝返りを打ってこちらを向く彼。眠そうに蕩けた表情をしている。
「なぁに?」
「キスしたい……」
そう言ってゆっくりと瞬きをした彼の唇に、俺はそっと唇を重ねた。顔を離すと、彼はいつものように嬉しそうに微笑んでいた。
「キスだけでいいの?」
そう彼に訊ねると、彼の目が少し見開かれて、だんだんと頬が染まっていく。少し意地悪なことを聞いたかな? と思いつつ、嫌だと言われるのを期待している自分がいた。
「……だって、まだ昼過ぎだよ?」
「外に聞こえちゃうって?」
「なっ……!」
顔を真っ赤にして言葉に詰まる彼が可愛らしくてつい笑ってしまう。
「ははは……いつまでもリアクションが可愛いなぁ……」
「うるさいなぁ……ほっといてよ」
「心配しないでも、大丈夫だよ」
「何が?」
腕の中で不貞腐れている彼の頭をそっと撫でて、もう一度抱きしめて耳元で囁く。
「雨の音が煩くて、何も聞こえやしないよ」
そう言って、彼を仰向けに寝かせて覆い被さった。俺を見上げている彼の頬は相変わらず赤いまま。
「さて、どうする?」
そう彼に訊ねると、恥ずかしそうに目を逸らして、何と答えようか言葉を選んでいるようだった。
「……キスして……もっと」
そう言って、彼の腕が伸びて俺の頭を引き寄せると、そのまま唇が重なった。

雨音はまた大きくなって、もう外の音は何も聞こえない。

それでいい。
大雨が作った閉じた世界で、
聞こえるのは、互いを感じる音だけ。

こうして君と二人きりになれるなら、止まない雨も悪くない……


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