Achromatic
珍しく今夜は都内でも雪が降った。
ひらひらと、花弁のように降りてくる雪は綺麗だと感じたけれど、仕事の帰り道はあまりの寒さにマフラーで顔まで包みたくなったほどだ。
瑞貴は、これから職場を出ると連絡をくれたから、少し時間差で帰ることになりそうだ。それなら、先に夕飯を買って帰って、冷えた身体を温める為にお風呂を沸かしておこう。
こんな風に凍えそうなくらい寒い日は、いつもより早く彼に会いたいと思ってしまう。
きっと、寒くて人肌恋しいからなんだと思う。
***
「ただいま!」
「おかえり」
瑞貴が帰ってきた。玄関に出迎えると『すっごい寒かったー」と、コートに乗った雪を払いながら彼が言っていた。
「寒かったね。お風呂沸かしてあるよ。先に入る?」
「ううん……。ご飯まだでしょ? 先に食べよう。それから、お風呂は一緒がいい」
少し恥ずかしそうにそう言った彼。今日に限ったことではないけれど、寒い日は、やたら甘えてくる。きっと、瑞貴も俺と同じ気持ちなのだろう……。
「うん。じゃあ、そうしよう」
外気ですっかり冷え切った彼の額に軽くキスをすると、嬉しそうに彼が笑った。
「まだ、止まないね」
風呂上がり、彼が窓の外を見てそう言った。
花弁のようにひらひら降りてくる雪は相変わらずだ。ベランダの手摺りにうっすらと積もっている。
「こうやって、温かい部屋で見てる分には綺麗だけどね……」
窓際まで来ると外の空気が漏れているのか、肌寒さを感じて、彼を後ろから抱き締めた。すると、彼が俺の腕にそっと触れた。
「僕も雪は綺麗だと思うよ。寒いけど、こうしてくっついてる理由ができるし……」
彼の言葉に、より愛おしさを感じて、抱き締めている腕に少し力を込める。
「ここにいると風邪ひきそう……ベッドに行こうよ」
「うん」
部屋の明かりは消した。ベッドのサイドランプだけが寝室を照らしている。
彼は早々にベッドに横たわると俺の手を引いてきたから、彼に覆い被さる姿勢になる。
「ねぇ、今日は、手、繋いでて欲しい」
「うん……」
仰向けになる彼の左手をぎゅっと握ると、彼も同じように握り返してきた。
「安慈……あったかいね……」
嬉しそうに目を細める彼がたまらなく愛おしくなって、唇を重ねると、彼もまた追いかけるように唇を寄せてきた。
「ねぇ? 今日は……ゆっくりがいい……」
「うん……ゆっくり、ひとつになろう……」
そう返すと、彼が蕩けた表情で微笑んで、俺の首に腕を回す。
「ふふっ……すごく温かくて溶けちゃいそう……」
返事の代わりに彼の首筋に唇を寄せると、彼の熱を帯びた吐息が耳を掠めていく。
……彼に恋心を抱いたのはいつからだったのだろう……?
小さい頃から知っていたのに。
離れていた期間もあった。
けれど、今まで付き合ってきた人には、ここまで強い気持ちを抱けなかった。
……ずっと、君が好きだったのか……。
俺の下で、頬を染めて『もっと』と、キスを強請る彼の額に額を合わせた。
「瑞貴……」
「なぁに?」
「……愛してる……」
俺がそう言うと、彼は目を瞬かせて更に頬を赤く染めていく。ほんの少しの沈黙の後に、すぐに微笑んで俺の頬を両手で包んだ。
「僕も……愛してる」
彼の笑顔と言葉に胸が締め付けられる。この上ない幸福感に、また唇を重ねた。
外はきっとまだ花弁雪が降り続いているのだろう。
いつになく静かな夜で、聞こえるのは衣擦れの音と、お互いの吐息だけだった……。
ひらひらと、花弁のように降りてくる雪は綺麗だと感じたけれど、仕事の帰り道はあまりの寒さにマフラーで顔まで包みたくなったほどだ。
瑞貴は、これから職場を出ると連絡をくれたから、少し時間差で帰ることになりそうだ。それなら、先に夕飯を買って帰って、冷えた身体を温める為にお風呂を沸かしておこう。
こんな風に凍えそうなくらい寒い日は、いつもより早く彼に会いたいと思ってしまう。
きっと、寒くて人肌恋しいからなんだと思う。
***
「ただいま!」
「おかえり」
瑞貴が帰ってきた。玄関に出迎えると『すっごい寒かったー」と、コートに乗った雪を払いながら彼が言っていた。
「寒かったね。お風呂沸かしてあるよ。先に入る?」
「ううん……。ご飯まだでしょ? 先に食べよう。それから、お風呂は一緒がいい」
少し恥ずかしそうにそう言った彼。今日に限ったことではないけれど、寒い日は、やたら甘えてくる。きっと、瑞貴も俺と同じ気持ちなのだろう……。
「うん。じゃあ、そうしよう」
外気ですっかり冷え切った彼の額に軽くキスをすると、嬉しそうに彼が笑った。
「まだ、止まないね」
風呂上がり、彼が窓の外を見てそう言った。
花弁のようにひらひら降りてくる雪は相変わらずだ。ベランダの手摺りにうっすらと積もっている。
「こうやって、温かい部屋で見てる分には綺麗だけどね……」
窓際まで来ると外の空気が漏れているのか、肌寒さを感じて、彼を後ろから抱き締めた。すると、彼が俺の腕にそっと触れた。
「僕も雪は綺麗だと思うよ。寒いけど、こうしてくっついてる理由ができるし……」
彼の言葉に、より愛おしさを感じて、抱き締めている腕に少し力を込める。
「ここにいると風邪ひきそう……ベッドに行こうよ」
「うん」
部屋の明かりは消した。ベッドのサイドランプだけが寝室を照らしている。
彼は早々にベッドに横たわると俺の手を引いてきたから、彼に覆い被さる姿勢になる。
「ねぇ、今日は、手、繋いでて欲しい」
「うん……」
仰向けになる彼の左手をぎゅっと握ると、彼も同じように握り返してきた。
「安慈……あったかいね……」
嬉しそうに目を細める彼がたまらなく愛おしくなって、唇を重ねると、彼もまた追いかけるように唇を寄せてきた。
「ねぇ? 今日は……ゆっくりがいい……」
「うん……ゆっくり、ひとつになろう……」
そう返すと、彼が蕩けた表情で微笑んで、俺の首に腕を回す。
「ふふっ……すごく温かくて溶けちゃいそう……」
返事の代わりに彼の首筋に唇を寄せると、彼の熱を帯びた吐息が耳を掠めていく。
……彼に恋心を抱いたのはいつからだったのだろう……?
小さい頃から知っていたのに。
離れていた期間もあった。
けれど、今まで付き合ってきた人には、ここまで強い気持ちを抱けなかった。
……ずっと、君が好きだったのか……。
俺の下で、頬を染めて『もっと』と、キスを強請る彼の額に額を合わせた。
「瑞貴……」
「なぁに?」
「……愛してる……」
俺がそう言うと、彼は目を瞬かせて更に頬を赤く染めていく。ほんの少しの沈黙の後に、すぐに微笑んで俺の頬を両手で包んだ。
「僕も……愛してる」
彼の笑顔と言葉に胸が締め付けられる。この上ない幸福感に、また唇を重ねた。
外はきっとまだ花弁雪が降り続いているのだろう。
いつになく静かな夜で、聞こえるのは衣擦れの音と、お互いの吐息だけだった……。