Achromatic

おやすみ、と言って目を閉じたものの、何故か今夜は全然寝付けないでいた。
隣の瑞貴はもうとっくに眠っている。穏やかな呼吸で、とても気持ち良さそうに。
今夜は月が明るいせいか、電気を消した部屋にも少しだけ明かりが入ってくる。青い光は、眠る彼の頬を照らしていた。長い睫毛に、陶器のようになめらかな白い肌。小さい頃は本気で女の子だと思っていたくらい綺麗な彼の肌をそっと指で撫でる。
こうして眠くなるまで、彼を愛でているのも悪くないかもな……なんて思っていたら、彼の長い睫毛がふるふると震えて、うっすらと目が開いた。
「……どうしたの……? 眠れないの?」
少し掠れた声で彼がそう言った。
「ごめんね。全然寝付けなくて」
苦笑いしながらそう言うと、彼の手が伸びてきて俺の頭を自分の胸元に抱き寄せた。
「じゃあ……僕がこうしててあげる……」
「でも……腕痛くなっちゃうよ?」
彼の予想外の行動に驚いて、彼の腕の中から逃げようとしたけれど、ぎゅっと強く抱きしめられる。
「小さい頃……僕にこうしてくれたじゃん。だから、眠れない時はこうする……」
「あぁ……そうだったね……」
家族同士で何処かへ泊まりで出かけた時に、いつまでも眠れなかった瑞貴をあやすようにして寝かせた記憶がある。子供の頃の話なのに、覚えてたんだ……。
「大丈夫。これで眠くなるよ……。僕はきちんと眠れたから……おやすみ」
「うん……おやすみ」
いつもは俺が抱き締める側なんだけどな……と思いながらも、包まれているこの温かさと彼の鼓動が耳に心地良くて気持ちが凪いでいく。穏やかな寝息が聞こえるから、彼はすぐに眠ってしまったようだ。
「……ありがとう」
彼には聞こえていないと思うけれど、そう呟いて俺はゆっくりと目を閉じて、緩やかに眠りに堕ちていった……。
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