Achromatic

今日は珍しく安慈と帰りの時間が同じになった。駅で待ち合わせて同じ帰り道を歩いていく。
ふと、空を見れば星が静かに光っていた。
「あ、オリオン座だ」
小学校で習う冬の代表的な星座。星が3つ並んでいるから、覚えやすいし見つけやすい。それは大人になってもちゃんと覚えている。
「ホントだ。ちゃんと見たの久しぶり」
「僕もそうだよ」
「忙しいと空見る余裕もないもんね」
クスクスと二人で笑うと、顔の前にふわりと白い靄が浮かぶ。
「知ってる? オリオン座の左上の星、なくなるんだって」
安慈が空を見上げながらそう言った。
「え? なくなるの? オリオン座、崩れちゃうじゃん」
「そう。あの赤い星、見える?」
彼がそう言って、3つ並んだ星の左上にある赤い星を指差した。
「うん」
「あれ、ベテルギウスって星で、もうすぐ死ぬ星なんだって。あの星は八百万歳らしいよ」
「へぇ、星も死ぬの?」
空を見上げていた彼が、僕の方に顔を向けた。
「うん。もしかしたら『死ぬ』という表現は違うのかもしれないけど、星の内部の燃料がなくなると、星はどんどん重たくなって、それに耐えられずに爆発するんだって」
「そうなんだ……」

 歩きながら、もうすぐ死を迎える星のことを考える。星も生きてるんだよな……なんて、当たり前のことなのだろうけれど、普段そんなこと考えやしない。何より、天文学は時間の単位がおかしい。八百万歳の星が長生きなのか、短命なのか僕には分からない。
「……ねぇ、よく、死んでしまった人や生き物のことを『お星様になった』っていうじゃない?
あれは、星に生まれ変わったってことなのかな?」
「あぁ……多分、魂は天国に行くってことなんだと思うよ。空の上に天国があって、死んだ人は星になって、みんなを見守ってるよっていう」
「そっか……人間が星になるなら、星は何になるんだろうね?」
別に正しい答えが欲しいわけじゃないけれど、なんとなく彼に質問を投げた。きっと彼のことだから、真面目な答えが返ってくるのだろうけれど。
「星が爆発した後は、ブラックホールができたり、またそこから新しい星も生まれるんだって」
「へぇ、星も生まれ変わるんだ……。もし、星に生まれ変わったら、人間じゃ考えられないくらい長い時間生きることになるのか……」
僕は歩みを止めて、チラチラと瞬く星をまた見上げる。

「ねぇ、安慈は星に生まれ変わりたい?」
僕の唐突な質問に、彼は驚いたように振り向いて足を止めた。そして、小さく首を横に振って微笑んだ。
「ううん。星になって、何百万年も暗い宇宙で、一人で過ごすくらいなら、その分の時間、何度も人間に生まれ変わって、その度に、また瑞貴に会いたい」
「ぇ……?」
「生まれ変わっても、また一緒にいてくれる?」
 彼の優しい笑顔で紡がれた言葉に、僕は驚いて何も言葉を返せなかったけれど、その代わりに視界が滲んだ。

「うん……」
 震える声でそう返事をするのが精一杯だった。いつもは外ではやらないけれど、そっと彼の手を取ると、彼の大きくて温かい手が僕の手を包むように握ってくれた。
彼の言葉が嬉しかったのと、何故か切なくなって泣きそうになったのを誤魔化すように、僕は俯いて歩いていた。
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