Achromatic

『なんか怠い……』と言って、瑞貴は寝室に行ってしまった。
まだ昼を過ぎたばかりなのに、どこか具合が悪いのだろうか? 仕事柄、正月休みらしい休みもあまりない彼だから、風邪をひいたのかもしれない。

「大丈夫?」
寝室の入り口から声をかけると、小さく『うん』と返事が聞こえた。
「風邪でもひいた?」
「分からない。でも、館内も人が多かったからね……風邪くらいひいてもおかしくないよね」
瑞貴は、毛布の端を握りしめながら身体を丸めて横になっていた。そう言っておきながら、何で一枚しか掛けてないのか……。ベッドの端で丸まっていたタオルケットを広げて彼に掛けてあげる。
「ちゃんと掛けないと……」
「部屋の中、暖かいからいいかなと思って」
「良くないです」
「今日の安慈冷たい」
そう悪態をつく瑞貴。冷たいなら、こんな風にタオルケットを掛けてあげないよ。そうやって寝込むことが少ない君だから心配しているというのに。
「えー? じゃあ、俺、向こう行くね」
「やだ」
そう言って慌てて俺の手を掴む瑞貴。
「やだって……子供じゃないんだから一人で寝なよ」
「こういう時くらい、寝るまでそばにいてくれてもいいんじゃないの?」
「もう、素直じゃないなぁ……」
そう言って、ベッドに座ってから瑞貴の額に手を当てた。温かいけれど、熱がある感じはしない。
「熱は無さそうだね」
「うん……怠いけど」
「じゃあ、寝ましょう。寝るまでそばにいるから」
「うん……」
瑞貴が手を差し出してきたので、ぎゅっと握ってやると、嬉しそうに微笑んだ。
手を握ったまま、ぽつぽつと他愛のない会話をしていたけれど、そのうちに瑞貴がうとうとしてきて、彼の返事も途切れ途切れになってきた。
そのうち、部屋に聞こえるのは静かに眠る彼の呼吸だけ。彼の頭をそっと撫でてみたけれど、身動ぎすることもなく、穏やかに寝息を立てていた。
「……今夜は、お腹に優しいものを作りましょうか」
眠る瑞貴に小さく声をかけて、もう一枚布団を掛けてから寝室を出た。

さて、冷蔵庫には何があったかな……? お疲れの可愛いパートナーには、お腹に優しくて、元気になるものを用意してあげよう。
そう思いながら、俺はキッチンへ向かった。

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