Richromatic

「つやつやどんぐり見っけ!」
僕と同じ歳だと言っていたから、それなりに良い大人のはずだけど、この男は子供のように、ベンチの側にある大きな木の下でどんぐりを拾っている。
この男は僕のパートナーの親友。
僕に会いたいと、彼に言ったらしく今日初めて会ったのだけど……。
パートナーはどこに行ったのかというと、今、三人分の飲み物を買いに行ってくれているのだが、コーヒースタンドはどうやら混んでいるようだ。
ベンチに座って待っていたが、彼がなかなか戻ってこないから、こいつが退屈してどんぐりを拾い出したんだ。

「……楽しい?」
僕がそう訊くと、彼は振り返ってニッコリと笑った。
「大きいのとかキレイなの見つけるとちょっと嬉しくなるよ」
「変な奴……」
「あはは!よく言われる!」
幾つか拾って満足したのか、彼は僕が座っているベンチに一人分の間を空けて座った。
一応、気を遣っているのかな?
今はパートナーもいないし、聞いてみるなら今だと思って口を開く。
「ねぇ、何で、僕に会いたいなんて言ったの?」
僕がそう言うと、彼は驚いたような顔をした後にすぐに笑った。
「え? 友達の恋人って会ってみたくない?」
「そうかな……?」
「だって、『大切な人の、大切な人』だよ。どんな人なのかな?って気になってさ」
こいつは、終始ニコニコしているけれど、別にその笑顔に打算だとか胡散臭さみたいなものは感じられない。そう、天真爛漫な子供みたいだった。
「……相手が男でも、何とも思わなかったの……?」
僕がそう言うと、彼は『えっ!』と大きな声を上げたものだから僕の方がびっくりしてしまった。
「そんな大きな声出さなくても……」
「だって、彼のことが好きなんでしょ?『彼』が好きならそれでいいじゃん!そこは性別で選ばないでしょ?男だから、女だから誰でも良いってわけじゃないじゃん!」
「わ、分かったからもう少し声小さくしてよぉ……」
だんだん興奮して声が大きくなる彼を慌てて宥める。
「ごめんね。つい。だから、別に気にしてない。
オレにとって大切な人が、大切に想っている人なんだから、それをオレが否定したり貶したりするのは違うし」
そう言って、彼は先ほど拾っていたどんぐりを幾つか自分の掌に乗せる。
「もちろん、この国がまだ受け入れるのがなかなか難しいってこともわかってはいるけどね。
だからこそ、早く、このどんぐりの大きさとかキレイさみたいに、ただの個性だとみんなが受け入れてくれるようになればいいのにねと思う。だってさ、別に誰が誰を好きになろうと勝手なんだから、外野は黙ってろよと思うんだよねー。余計なお世話だよ」
明るいトーンで吐き出された暴言につい笑ってしまったら、彼も一緒に笑った。
「ありがとう。ただのアホの子だと思ってたけど、良い人だね」
「ありがとう!って、今アホの子って言ったね⁉︎」
「うん」

そうこうしていたら、三人分の飲み物を持ってパートナーが戻ってきた。
「ねー!この子、オレのことアホの子って言ったんだけどー!」
「え?それは通常運転じゃないの?」
「ひどい!!!」

二人のやりとりについ笑ってしまった。
彼の親友は、僕が思っていた以上に温かくて、彼の次くらいには信用してもいいかなと思える人だった。

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