Richromatic

背中にチクチクと刺さるものがある。
けれど、今日中にこれは終わらせたいんだ。
いや、終わらせないと明日困るんだけど……。
休みが合ったからと、彼が家に来てくれたものの、持ち帰り仕事のせいで全然構っていない。
さっきからチクチクと刺さっているのは、彼の視線だ。
チラリと後ろを見ると、ベッドに横になって、本棚から適当に引っ張り出したであろう文庫を読んでいた。
目が合うと『終わった?』と聞かれてしまうので、あまりジッとは見てはいけない。
すぐに顔をモニターの方に戻した。

しばらくすると、背後でもそもそと動く音がして、彼が一旦部屋を出て行ったが、程なくして戻ってきた。
何をしているのかあまり気にせずに、俺はそのまま仕事を続けていた。

すると、こつん という音と共にデスクの上に何か飛んできた。
小さな紙飛行機だ。
「何してるの?」
思わず振り向いて彼の方を見ると、彼はベッドの上で、正方形のメモパッドから一枚ずつ紙を剥がして紙飛行機を折っていた。
「紙飛行機作ってるの。終わった?」
「ごめん。まだ暫くかかるよ」
「……」
彼は不満そうに溜息をつくと、紙飛行機を折り続けていた。
暇潰しになっているならいいか、と俺は仕事に戻る。作業している間も、紙飛行機がデスクに飛んできたが数回飛んできた辺りでもう気にならなくなった。


「終わった……」
と、溜息を吐いて伸びをする。
デスクには四色の小さな紙飛行機が全部で10機ほど。よくこんなに作ったなと思いつつ、終わったよ、と後ろを振り返ると、彼は退屈すぎたせいかベッドですやすやと眠っていた。
「あれ……寝ちゃったか」
それだけ待たせてしまったことを申し訳なく思いつつ、畳んであったタオルケットを彼に掛けてあげる。
さて、このデスクの紙飛行機どうしてやろう。
可愛い君の作品ならばとっておこう とは思うけれど、数が多い……と、眺めていたら、折り方が緩かったのか少し開いている紙飛行機の内側に何かが書いてあった。それを広げて見ると『早く終わらないかなー?』と、神経質そうな線が細い字で書かれていた。
何か書いて投げていたのか。そう気づいてデスクに散らばる紙飛行機を一つずつ広げていく。

『まだ?』多分、1番最初に投げてきたやつだ。
『持ち帰り仕事多くない?』うぅ……何も言えない。
『夕飯何食べる?』『僕はパスタ食べたい』
『たまには駅前のあのお店にしない?』
夕飯の提案が続いて思わず笑ってしまったが、彼の提案にはOKを出そう。
残りの紙飛行機も広げていくと……。
『帰りたくないなぁ』
『好き?』
『大好き』

おそらく、俺が紙飛行機に全然構わなかったから、どうせ広げて見ないと思って書いたのだろう。
素直じゃない彼の、素直なラブレターに思わず頬が緩んでしまった。
「ふふふ。君のそういうところが好きだよ……」
そう言って、すやすやと眠る彼の頭をそっと撫でた。
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