Richromatic
この部屋って意外と広かったんだな、なんて、何もなくなった住み慣れた部屋を見て思う。
桜が咲き始める頃、引っ越しを決めた。
あとは、不動産屋に鍵を渡したらこの部屋とはお別れだ。
「良かった。間に合って」
ドアが開く音と共にそう聞こえて振り向くと彼が部屋に入ってきた。
「あれ、君は立ち会わなくてもいいんだよ?先に行ってて良かったのに」
「ううん。いいの。鍵はもう返したけど、君との思い出をたくさんくれたこの場所に、最後にお別れを言いたくて」
そう言って、彼はベランダに出て行く。
「ここで流星群見たよね……。新しい家でも綺麗に見られるといいね」
「そうだね。次の所はここよりも少し高いからもう少し綺麗に見えるんじゃないかな?」
「うん。楽しみ」
ふわり、と心地良い風が吹くとひらひらと桜の花びらが彼の掌に降りてきた。
「ふふふ。この場所がくれた餞かな?」
そう言って、彼は笑う。
「そうかも知れないね」
俺がそう返すと、彼は大事そうに桜の花びらを手の中に収めて、中へと戻る。
「ねぇ……改めてお礼を言わせて」
彼が、そう言って胸の中に飛び込んできた。
「僕の居場所になってくれて、ありがとう」
彼の言葉に胸の奥がじんわりと温かくなって、彼の背中を抱き締めた。
「ううん。俺もお礼を言わせて。そばにいてくれて、ありがとう」
そう言うと、彼がにっこりと笑った。
「「これからも、よろしくね」」
二人で同じ言葉を同時に言ったものだから、つい笑ってしまった。
「そろそろ、不動産屋さん来るかな……?」
「多分。ところで、そのお花どうしたの?」
彼の手には小さな紙袋に入った小ぶりな花束。
「あぁ、これ?新居に飾ろうかなって。少しは華やかになるかなって」
「いいね。あと、君が描いた絵も飾ろうね」
「いいの?ありがとう」
開け放っていた窓から、また暖かい春の風が花びらを乗せて入ってきた。
あの桜は、やはりこの場所から新しい場所へ向かう俺たちへの餞だろうか……。
これから先も、
君が幸せであるように、俺も幸せであるように、
どんなに辛いことがあっても、
君と生きてゆくから……。
そう、誓って大切な人の手をぎゅっと握りしめた。
桜が咲き始める頃、引っ越しを決めた。
あとは、不動産屋に鍵を渡したらこの部屋とはお別れだ。
「良かった。間に合って」
ドアが開く音と共にそう聞こえて振り向くと彼が部屋に入ってきた。
「あれ、君は立ち会わなくてもいいんだよ?先に行ってて良かったのに」
「ううん。いいの。鍵はもう返したけど、君との思い出をたくさんくれたこの場所に、最後にお別れを言いたくて」
そう言って、彼はベランダに出て行く。
「ここで流星群見たよね……。新しい家でも綺麗に見られるといいね」
「そうだね。次の所はここよりも少し高いからもう少し綺麗に見えるんじゃないかな?」
「うん。楽しみ」
ふわり、と心地良い風が吹くとひらひらと桜の花びらが彼の掌に降りてきた。
「ふふふ。この場所がくれた餞かな?」
そう言って、彼は笑う。
「そうかも知れないね」
俺がそう返すと、彼は大事そうに桜の花びらを手の中に収めて、中へと戻る。
「ねぇ……改めてお礼を言わせて」
彼が、そう言って胸の中に飛び込んできた。
「僕の居場所になってくれて、ありがとう」
彼の言葉に胸の奥がじんわりと温かくなって、彼の背中を抱き締めた。
「ううん。俺もお礼を言わせて。そばにいてくれて、ありがとう」
そう言うと、彼がにっこりと笑った。
「「これからも、よろしくね」」
二人で同じ言葉を同時に言ったものだから、つい笑ってしまった。
「そろそろ、不動産屋さん来るかな……?」
「多分。ところで、そのお花どうしたの?」
彼の手には小さな紙袋に入った小ぶりな花束。
「あぁ、これ?新居に飾ろうかなって。少しは華やかになるかなって」
「いいね。あと、君が描いた絵も飾ろうね」
「いいの?ありがとう」
開け放っていた窓から、また暖かい春の風が花びらを乗せて入ってきた。
あの桜は、やはりこの場所から新しい場所へ向かう俺たちへの餞だろうか……。
これから先も、
君が幸せであるように、俺も幸せであるように、
どんなに辛いことがあっても、
君と生きてゆくから……。
そう、誓って大切な人の手をぎゅっと握りしめた。
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