Richromatic

肌寒いと感じて、目を覚ました。
薄目で見えたのは、隣で気持ち良さそうに眠る彼。
少し視線を遠くへとずらして、カーテンの向こう側を見るとまだ薄暗い。はだけていた毛布をかけ直して、少しだけ彼の方へすり寄った。
すぐ傍で感じるもう一つの温もりに安心する。

……俺が君の居場所になればいいと思って。

この言葉にどれだけ救われただろう……。
僕に対して、彼は絶対味方でいてくれるし、僕の好きなものもちゃんと覚えてて、僕のことすごく考えてくれてる。
今は、いつでも一緒にいられるわけではないけれど、心の寄る辺があるというだけでこんなに穏やかでいられるのかと彼と一緒にいるようになってから気付いたこと。
幼馴染なのにね。高校や学生の頃は別々だったけど、今更気づくなんて遅いよね……。

「ありがとう……」

思わず口から溢れた言葉。でも、紛れもない心からの言葉。
すると、彼がモゾモゾと身動ぎをした。
「……何のことかな……?」
そう言って、彼は僕を自分の方に抱き寄せた。
「起きてたの……?」
「ん……君が起きた気がして……。何がありがとうなの?」
掠れた声でそう言って彼は僕の頭に頬を寄せきて、僕はくっついた体温に嬉しくなる。
「ん……いつも僕のこと大事にしてくれるから、ありがとうって……。君といて、僕は心穏やかに生きていられるから……」
僕がそう返すと、彼が小さく笑う。
「そんな……お礼を言われる程のことじゃないけどな……」
「僕にとっては大事なこと。ねぇ、僕は、君に返せてる……? 僕ばっかり、君からたくさんのものを貰ってるけど……」
……たくさんの愛を貰ってる。君がくれた分の対価を僕は払えているのだろうか……?
そう思っていると、また彼が僕をぎゅっと抱きしめる。
「……俺もたくさん貰ってるから安心して。君が笑顔でいること。君が安心して……幸せでいてくれることが、俺にとっての一番だから、何も見返りなんて求めてないよ。俺は、君がそばにいてくれるだけで充分」
「本当に……?」
「うん……。だから安心して……そして……」
そう言って、彼は毛布を肩の上まで引き上げて僕を腕の中に収める。
「もう少しこうして寝ていよう……?俺はこれで幸せ……だから……」
彼はそう言って黙ってしまった。程なくして、規則正しい呼吸が聞こえてきた。

そっか……それなら良かった……。
彼の腕の中はとても温かくて、またウトウトしてきてしまう。
どうせなら彼の寝顔を見ていたいと思ったけれど、この至福の温もりに抗える術なんてなくて、僕も緩々と眠りに落ちていった……。




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