Richromatic

彼の家で、たまたまつけていたテレビでは、ハワイの天体ショーが映し出されていた。
月虹、ムーンボウというらしい。満月の光でも虹が出るなんて初めて知った。
「へぇ……月の光で虹が出るなんて綺麗だね……」
白い虹は、太陽の下で見る七色の虹とは違った神秘的な美しさだった。画面越しなのが惜しい。
「僕、死ぬまでにこれ見てみたいな……」
そう呟いたら、隣に座っていた彼が『えっ』と声を上げる。
「死ぬまでに、なんて縁起でもないこと言わないでよ」
「え、そっち?月虹見たいじゃん。自然の芸術だよ」
「そうだけど……。気候的に日本だと見られないんじゃないかなぁ……?」
彼はそう言ってスマホで何やら調べ始める。
「うん。やっぱり都会じゃ見られない」
「えー……。やっぱり海外行かなきゃかー……」
仕事柄、あまり固定で休みがないから、海外に行くとなるとかなりの準備と根回しが必要だ。
その手間を考えて少し気持ちが萎えていたところに、彼の親友が突然大声を出した。
「じゃあさ、みんなでハワイ行こう!ハワイ!」
相変わらずコイツは目をキラキラさせて突拍子もないことを言う。
僕もだいぶ慣れてきたけれど、海外なんて、そんな簡単に行けないから。
「電車でその辺に行くのと違うんだよ?そんな簡単に……」
「え?ハワイなんて飛行機ですぐだよー。ヨーロッパ行くより全然近いし!ねぇねぇ、いつ行く?せっかくだから三泊くらいしたいじゃん?二人ともいつなら休みなの?年末年始?」
彼の親友は、そう言ってスマホを弄って何やら調べている。その様子を僕のパートナーはニコニコと眺めている。このまま放っておいたら年末年始にハワイ旅行になるけど……。
「ねぇ、止めないの?」
「いつものことだからね。よく仕事でもプライベートでも海外行くから、旅程は彼に任せて大丈夫だよ」
「え、ちょっと待って。本当に行くの?」
あまりにも話がトントン拍子に進んでいくのに追いつけず、僕はそう言った。
すると、彼の親友はちょっと目を丸くしたけれど、すぐに笑顔になる。
「一緒に行こうよー!楽しいよ!いつも篭って仕事してるんでしょ? ハワイは良いよー。すごく解放されるから」
彼はニコニコとそう言って、またスマホに視線を戻した。
「ねぇ!今、丁度ハワイは雨季だから虹がたくさん見られるよ!夜の早い時間で、雨上がりとかならムーンボウ見られるかもよ!」
『飛行機はどれくらいかなー?』と、機嫌良さげに鼻歌を歌いながら彼はスマホを弄っている。
「……この子、すごい行動力だね」
「でしょ?だから、一緒にいると楽しいよ。きっと、新しい世界にも出会える」
僕のパートナーは、穏やかに笑ってそう言った。
パートナーとアイツが、高校を卒業しても、未だに付き合いが続いている理由が少しだけわかった気がした。
「オレね、この三人であちこち行きたいんだ。世界の絶景でさ、ジャケ写みたいな写真、三人で撮ろうよ」
「ジャケ写にするの?」
「あー……さすがに一般人巻き込むわけにはいかないから、額に入れて部屋に飾る」
「何それ。それなら別にジャケ写じゃなくてよくない?」
僕がそう言うと、二人がケラケラと笑う。
あぁ、もう。どうして三人になると学生みたいなテンションになるんだろう。
ちょっとバカだなぁ……と思いながらも、こんな時間も楽しくて、愛おしいなと思った。

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