Richromatic

「わぁ、懐かしいなぁ!」
屋上への古びた鉄の扉を開けて広がった光景に、彼は嬉しそうに駆け出した。
久しぶりに足を踏み入れた母校は、文化祭で盛り上がっていた。もう卒業して7年になるのか……時間が経つのは早い、なんて思いながら見下ろした校庭は、生徒達の出し物や出店で賑わっていて楽しそうだ。

「オレ、ここから見る景色があんまり変わってなくて、ちょっと嬉しい」
屋上のフェンスの辺りまで走っていった彼は、後から来る俺に聞こえるよう、少し声を張ってそう言った。
「そうだねぇ。遠くの景色は大して変わってないかもね」
やっと、彼に追いついたところでそう返した。
「そういえば、今ぐらいの時期、いつも屋上にいたよね。教室覗いて居なければ、だいたいここだった」
高校時代の彼のことを思い出してそう言うと、彼は少し目を丸くした後、照れ臭そうに笑った。
「あはは……そんなこと覚えてたの?」
「うん。何でかはその時は聞かなかったけど……。何か理由があったの?」
そう訊ねると、彼は空を見上げた。
「ここから見る空が好きだった。何も遮るものがないから。それで……世界ってこんなに広いんだなぁ、オレって世界から見たら小さいなぁって思ってたの」
彼はそう言うと、視線を俺に戻してフェンスに背中を預けた。
「今思うといかにも高校生っぽいなって、ちょっと笑っちゃうんだけどね。でも、もっと広い世界を見たいと思ったのもやっぱりここで。それが、留学だったり今の仕事に繋がったのかなって」
「そっか。自分の道を決めた場所だったんだね」
「うん。あと……」
そう言って、彼は屋上の入り口へと向かって歩いて行く。
「ここにいると、いつもお迎えに来てくれるお兄ちゃんがいたからってのもあるかなー?」
ケラケラと笑いながら彼はそう言った。
「え?ちょっと待って。それって俺?」
「あはは……。お兄ちゃんお腹すいた。たこ焼き奢って」
「嫌だよ。もう大人なんだから自分で買って」
「えー。今日は意地悪だー」
「えー?いつも通りだよ」
「ねぇ、今日はあの子来ないの?」
「仕事だからね」
「なんだー。会いたかったな」

……あの頃、大切な仲間と過ごした場所は変わらずにそこにあった。
その時の絆も変わることなく、この先も続いたらいいな……なんて、澄んだ空を見上げて思った。

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