Richromatic
彼が家を出る時に『寄っていい?』と言って、向かった先は、彼の住むマンションのすぐ隣にあるクリーニング屋だった。
今は、彼が出てくるのを外で待っている。
まだ日は落ちてはいないけれど、夕方になると少し肌寒い。
ストール巻いてきて良かったと思っていると、彼が店から出てきた。
「ごめんね。じゃあ、行こうか」
「うん」
彼の隣に並んで、駅前に向かって歩き出した。
「何、出してきたの?」
「あぁ、スーツだよ」
「仕事でスーツ着るんだっけ?」
彼の仕事は白衣を着るのは知っているけど、スーツではなかった気がしてそう訊ねた。
「ううん。この前、大学の友達の結婚式だったから」
「へぇ、結婚式か……」
「そろそろ、呼ばれるのが増える歳なのかなぁ、なんて思ったけどね。友達は、今時珍しく派手婚だったけど、その前に結婚した友達は、式自体やらなかったなぁ」
「そっか……」
彼の話を聞いて、ふと、数年前の兄さんの結婚式を思い出した。
僕は、あまり兄さんのことは好きじゃないけれど、あの時だけは『コイツ、こんな穏やかな顔することあるんだ』って思ったくらい『幸せ』があの場に溢れていたように思う。
おそらく、人生で一番綺麗に着飾って、たくさんの人に祝福されて、最愛の人と結ばれる日。
あの空間が、とても眩しかった。
「……僕達は……祝福されるのかな……?」
気づけば、そう口から溢れていた。
しまった、と思って彼の顔を見ると、目を丸くして僕を見つめていた。
「ご、ごめん……なんでもないから。今の忘れて……」
彼の顔が見られなくて俯いた。今言った言葉は、好きになったことを後悔してる と思われてもおかしくない。僕はただ……彼が大切な人だと周りにも分かってほしいだけ。
「……ねぇ」
彼の低い声が頭に降ってくる。柔らかいけれど、感情が読み取れない。と、思っていたら左手をぎゅっと握られた。
外では絶対しないことだから、驚いて顔を上げると、彼は穏やかに微笑んでいた。
「俺といて、君は幸せ?」
「うん」
「それなら、良かった」
思わず即答してしまったけれど、彼は僕の返事にニコリと笑う。
「俺は、例え周りの人間が祝福をしてくれなくても、君が俺といて幸せだと思ってくれているなら、それで良い。他人の祝福なんていらない」
「え……」
「もし、正式に認めてもらえないのが嫌なら、この国を壊すことはできないけれど、この国を捨てることはできる」
いつもより、強い言葉を使う彼に少し戸惑ってしまったけれど、彼の本音が聞けたような気がした。
「ごめん。ありがとう……。そんなこと言わせるつもりじゃなかったんだけど……嬉しい」
僕はそう言って、彼の手をぎゅっと握り返した。
すると、彼が再び目を丸くする。
「え? そうだったの? 俺はこんなところでプロポーズなんてどうしようって思ったけど?」
「えぇ⁉︎ あ、いや、そういうわけじゃ……。というか、めちゃくちゃポジティブだね! 僕、傷つけたかと思ったのに」
「え?普通に『結婚式したいんだなぁ』 って思ったよ?」
「いや、そういうわけじゃなくて……あぁ、もう。この話おしまい!早く行こうよ!」
繋いでいた手を離して、慌てて彼より前を歩く。
僕の様子に彼がクスクスと笑っているのは背中で感じ取ったけれど、今はできるだけ顔を見られたくない。なぜなら、僕の頬を撫でていく冷たい風が、心地良く感じるくらい顔が火照っているから。
早くもう少し暗くなって欲しいと思いながら、首元のストールに少し顔を埋めた。
今は、彼が出てくるのを外で待っている。
まだ日は落ちてはいないけれど、夕方になると少し肌寒い。
ストール巻いてきて良かったと思っていると、彼が店から出てきた。
「ごめんね。じゃあ、行こうか」
「うん」
彼の隣に並んで、駅前に向かって歩き出した。
「何、出してきたの?」
「あぁ、スーツだよ」
「仕事でスーツ着るんだっけ?」
彼の仕事は白衣を着るのは知っているけど、スーツではなかった気がしてそう訊ねた。
「ううん。この前、大学の友達の結婚式だったから」
「へぇ、結婚式か……」
「そろそろ、呼ばれるのが増える歳なのかなぁ、なんて思ったけどね。友達は、今時珍しく派手婚だったけど、その前に結婚した友達は、式自体やらなかったなぁ」
「そっか……」
彼の話を聞いて、ふと、数年前の兄さんの結婚式を思い出した。
僕は、あまり兄さんのことは好きじゃないけれど、あの時だけは『コイツ、こんな穏やかな顔することあるんだ』って思ったくらい『幸せ』があの場に溢れていたように思う。
おそらく、人生で一番綺麗に着飾って、たくさんの人に祝福されて、最愛の人と結ばれる日。
あの空間が、とても眩しかった。
「……僕達は……祝福されるのかな……?」
気づけば、そう口から溢れていた。
しまった、と思って彼の顔を見ると、目を丸くして僕を見つめていた。
「ご、ごめん……なんでもないから。今の忘れて……」
彼の顔が見られなくて俯いた。今言った言葉は、好きになったことを後悔してる と思われてもおかしくない。僕はただ……彼が大切な人だと周りにも分かってほしいだけ。
「……ねぇ」
彼の低い声が頭に降ってくる。柔らかいけれど、感情が読み取れない。と、思っていたら左手をぎゅっと握られた。
外では絶対しないことだから、驚いて顔を上げると、彼は穏やかに微笑んでいた。
「俺といて、君は幸せ?」
「うん」
「それなら、良かった」
思わず即答してしまったけれど、彼は僕の返事にニコリと笑う。
「俺は、例え周りの人間が祝福をしてくれなくても、君が俺といて幸せだと思ってくれているなら、それで良い。他人の祝福なんていらない」
「え……」
「もし、正式に認めてもらえないのが嫌なら、この国を壊すことはできないけれど、この国を捨てることはできる」
いつもより、強い言葉を使う彼に少し戸惑ってしまったけれど、彼の本音が聞けたような気がした。
「ごめん。ありがとう……。そんなこと言わせるつもりじゃなかったんだけど……嬉しい」
僕はそう言って、彼の手をぎゅっと握り返した。
すると、彼が再び目を丸くする。
「え? そうだったの? 俺はこんなところでプロポーズなんてどうしようって思ったけど?」
「えぇ⁉︎ あ、いや、そういうわけじゃ……。というか、めちゃくちゃポジティブだね! 僕、傷つけたかと思ったのに」
「え?普通に『結婚式したいんだなぁ』 って思ったよ?」
「いや、そういうわけじゃなくて……あぁ、もう。この話おしまい!早く行こうよ!」
繋いでいた手を離して、慌てて彼より前を歩く。
僕の様子に彼がクスクスと笑っているのは背中で感じ取ったけれど、今はできるだけ顔を見られたくない。なぜなら、僕の頬を撫でていく冷たい風が、心地良く感じるくらい顔が火照っているから。
早くもう少し暗くなって欲しいと思いながら、首元のストールに少し顔を埋めた。