「旬のものって、何だろね？」
今日の夕飯は何にしようか？ と、彼とスーパーで買い物していると、唐突に彼がそう言った。
「その季節に一番新鮮で美味しいもの」
「じゃあ、今は鰹？鮪？」
どうやら、鮮魚コーナーのポップを見て疑問に思ったらしい。
「どっちもじゃない？ 魚、食べる？」
「うん。じゃぁ、鮪」
「じゃあ、切り落とし買って、アボカドも合わせようか？」
「え、オシャレ。カフェご飯じゃん」
「その、発想をする君の方がオシャレ」
正直言うと、俺は居酒屋メニューしか思い浮かばなかったから、彼のその言葉にやっぱり美的センスの高い人は違うなぁ……なんてぼんやり思っていた。
俺の言葉に彼は愉しげに笑っていたので、まぁ良しとしよう。必要な物をカゴに入れて、カートを押して歩く。
「ねぇ、人間も、旬ってあるのかな……？」
明日の朝食を考えながら棚を見ていたら、彼が呟くようにそう言った。
「……食べたことないからわからないな」
「そこは聞いてないよ」
彼が、俺の返しに苦笑いをする。人間の旬か……よく、テレビに出ている芸能人には『旬』という言葉はあてられるけどね。
「うーん。そうだなぁ……肉質的に言ったら、若いうちが美味しいんじゃない？ 居酒屋メニューでも 『若鶏の唐揚げ』ってわざわざ書くくらいだからきっと若い方が美味しいんじゃない？」
「ふぅん。僕の旬はいつなんだろうな？」
それは肉質的な意味なのだろうか……？ 俺から見たら、今でも十分美味しそうではあるけれど……。時々、彼の質問が冗談なのか本気なのか分からないことがある。
「……五歳くらいかな？」
「五歳かぁ……。そしたら僕、賞味期限切れじゃん」
なるほど、そう返ってくるか。

「大丈夫だよ。食べるの俺だから」
「え？」
「え？」
それから、彼は恥ずかしそうに俯いて黙ってしまった。俺としては、彼からそういう反応が返ってくるうちは『旬』なのかなぁとは思うけれどね。