Richromatic

今日は流星群が見られるとニュースでやっていた。ピークは午前2時頃かぁ……と、ぼんやり思っていたら、スマホが震える。画面を見ると、彼からのメッセージ。
『流星群、一緒に見たい』
という一言に、少し嬉しくなってすぐに返事をした。



「ねぇ、どうかな? 見えるかな?」
深夜、ベランダに出て声を潜めながら彼がそう言う。楽しみなのを堪えて、一生懸命小さい声で話そうとしているけれど、やっぱり声が弾んでいた。
まだ、秋とは言え深夜は冷え込む。肌を撫でる冷たい空気に思わず『寒い』と呟いてしまった。
「ほら、風邪ひくからおいで」
「うん」
部屋から持ってきた毛布を肩から羽織って、そのまま彼を後ろから抱きしめて毛布で包んだ。
彼が泊まりに来た時は、同じシャンプーのはずなのに、こうするといつも彼からは良い匂いがする。彼の首筋に顔を埋めて抱き締める腕に少し力を込めると、彼が擽ったそうにクスクスと笑う。
「月が明るいから、たくさんは見えないかも、って天気予報で言ってたね」
抱き締めている俺の腕に手を乗せながら彼がそう言った。
「暫く見てたら一個は見えるんじゃないかな?」
「むぅ。流れ星一個じゃ足らないよ」
「え? 一個じゃ足らないの? そんなに何をお願いしようとしてたの?」
「それは言わない」
「えぇー?教えてよ」
後ろから抱きしめているのを良いことに、彼の脇腹を擽ると、彼が『やめて』と身体を捩る。
「もう……擽るのはナシ。一個だけなら教えてあげてもいいよ」
「うん、教えて……」
こっちを向いてそう言った彼の額に自分の額を合わせる。外が寒いから、少し触れるところが温かくて心地良い。
「……こうして、ずっと一緒にいられますように」
彼がそう言ったのと同時に、視界の端にキラリとしたものが流れていった。
「あ、今見えた」
「えっ?」
彼は、パッと空へと顔を向けるが、数秒待っても何も空に変わりはなかった。
「見たかったな……」
「また見られるよ。ほら、空見てないと」
残念そうに俯く彼を宥めて、顔を空に向かせる。
「……その願い事なら、わざわざ星に願わなくても、俺が叶えてあげるけどな?」
そう言うと、彼が『違うよ』と首を小さく振る。
「自分たちの意思の問題じゃなくて……。ほら、人生、何が起きるか分からないから。もしかしたら、僕が突然死んじゃうかもしれないでしょ?
だから、僕達の間には平和で穏やかな日々がずっと続きますようにってこと」
彼はそう言って、俺の手をぎゅっと握った。
彼の言葉に胸が締め付けられて、もう一度、彼を強く抱き締めた。
「そうだね……」
「また、こうして一緒に流星群見ようね。それで、同じ願い事をする。一回だけじゃなくて、毎回叶うように。あ、今流れた」
彼がそういって、空を指差した。
空を駆けていく流れ星はあっという間で、消えまるまでに願い事を口にするのは難しかった。
けれど、ちらほらと空を駆けていく星達には、彼と同じように、一つの願いを込めていた。

ずっと二人で 一緒にいられますように……。

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