Richromatic
今日は三人で出掛けている。
アイツとも、なんだか仲良くなってしまった。というか、あっちが懐いてきたと言った方が正しいかもしれない。
たまたま通り掛かったところに、ストリートピアノがあった。ニュースなどで見たことはあったけれど、実物を見たのは初めてだった。
「あ、ストリートピアノだ! ちょっと弾いてみようかな?」
ピアノに誰もいなかったのもあり、アイツがそう言った。
「行っておいで」
僕のパートナーは、相変わらずアイツには甘いのか、ニコニコと送り出している。
「ねぇ、リクエストある⁉︎」
「じゃあ、レパートリーで一番難しいの」
「ジャズ?クラシック?」
「えーっと、クラシック」
僕は二人のやりとりを黙って見ていた。
アイツは簡単にリクエストを受けていたけれど、どれだけ弾けるのだろう?
仕事はミュージシャンだというから、下手ってことはないのだろうけれど、彼のピアノの演奏を聴くのは初めてだ。
「ねぇ、あんな簡単にリクエスト受けてたけど……」
僕が彼にそう訊ねると、彼はニッコリ笑った。
「期待は裏切らないと思うよ。あぁ見えて凄いんだから」
ピアノの椅子に掛けたアイツは、下ろしていた髪を耳にかけてそっと鍵盤に指を置く。
程なくして奏でられたのは、まるで湧き出る泉のような、細かくて煌びやかで美しい旋律だった。
「え……?」
明るい茶髪のセミロングヘアーで毛先だけ真っ赤に染めているような、中身は子供みたいなアイツが、ピアノに向かうと全くの別人だった。
なんなら、見た目と弾いている曲が一致していない。
「へぇ、レパートリーに『水の戯れ』があったんだ」
彼は感心したようにそう呟いた。
「ねぇ、アイツって……」
「高校の頃、一番彼を捕まえたのは屋上なんだけど、その次くらいに音楽室によくいたんだよね。家のピアノはアップライトだったから、グランドピアノで練習したくてって」
「もともとピアニストなの?」
「うーん……彼の職業としては、どちらかと言えば声楽家。ピアノは小さい頃から習っていたみたいだけどね。クラシックならある程度は弾けるはずだよ。俺もよく高校の時リクエストした」
「そうなんだ……」
気がつけば、彼の見た目と演奏される曲のギャップのせいだろうか。周りにギャラリーも集まってきていた。
曲が終わると、アイツは椅子から立ち上がって、満足気に両手を広げた後、深々とお辞儀をした。
集まっていたギャラリーからは大きな拍手が起こる。
「えへへ……ちょっと途中で間違えちゃった」
僕たちの所へ戻ってきながら、彼は苦笑いしてそう言った。
「あんな高難易度の曲、間違えられても気づかないよー」
僕のパートナーは、そう言って演奏を終えた彼を労っていた。
「……ねぇ」
「ん?」
「あのっ、ピアノ……すごかった……。他に何弾けるの?僕、ブラームスのラプソディが好きなんだけど……!」
僕がそう言うと、アイツは少し驚いた様子だったけれど、すぐにいつもの人懐っこい笑顔になる。
「一番と二番、どっちが好き?うちに来てくれたらいくらでも弾いてあげるよ」
「え!ほんと?」
「いいよー。二人でおいでよ」
ニコニコしながらそう言った彼に、僕のパートナーは『カンパネラ弾いて』と素人でも難しいのが分かる曲をリクエストしていた。
……今日は、アイツの意外な一面が見られて、ちょっとカッコいいなぁと思った。友達として、ちょっと好きになったかもしれない。
アイツとも、なんだか仲良くなってしまった。というか、あっちが懐いてきたと言った方が正しいかもしれない。
たまたま通り掛かったところに、ストリートピアノがあった。ニュースなどで見たことはあったけれど、実物を見たのは初めてだった。
「あ、ストリートピアノだ! ちょっと弾いてみようかな?」
ピアノに誰もいなかったのもあり、アイツがそう言った。
「行っておいで」
僕のパートナーは、相変わらずアイツには甘いのか、ニコニコと送り出している。
「ねぇ、リクエストある⁉︎」
「じゃあ、レパートリーで一番難しいの」
「ジャズ?クラシック?」
「えーっと、クラシック」
僕は二人のやりとりを黙って見ていた。
アイツは簡単にリクエストを受けていたけれど、どれだけ弾けるのだろう?
仕事はミュージシャンだというから、下手ってことはないのだろうけれど、彼のピアノの演奏を聴くのは初めてだ。
「ねぇ、あんな簡単にリクエスト受けてたけど……」
僕が彼にそう訊ねると、彼はニッコリ笑った。
「期待は裏切らないと思うよ。あぁ見えて凄いんだから」
ピアノの椅子に掛けたアイツは、下ろしていた髪を耳にかけてそっと鍵盤に指を置く。
程なくして奏でられたのは、まるで湧き出る泉のような、細かくて煌びやかで美しい旋律だった。
「え……?」
明るい茶髪のセミロングヘアーで毛先だけ真っ赤に染めているような、中身は子供みたいなアイツが、ピアノに向かうと全くの別人だった。
なんなら、見た目と弾いている曲が一致していない。
「へぇ、レパートリーに『水の戯れ』があったんだ」
彼は感心したようにそう呟いた。
「ねぇ、アイツって……」
「高校の頃、一番彼を捕まえたのは屋上なんだけど、その次くらいに音楽室によくいたんだよね。家のピアノはアップライトだったから、グランドピアノで練習したくてって」
「もともとピアニストなの?」
「うーん……彼の職業としては、どちらかと言えば声楽家。ピアノは小さい頃から習っていたみたいだけどね。クラシックならある程度は弾けるはずだよ。俺もよく高校の時リクエストした」
「そうなんだ……」
気がつけば、彼の見た目と演奏される曲のギャップのせいだろうか。周りにギャラリーも集まってきていた。
曲が終わると、アイツは椅子から立ち上がって、満足気に両手を広げた後、深々とお辞儀をした。
集まっていたギャラリーからは大きな拍手が起こる。
「えへへ……ちょっと途中で間違えちゃった」
僕たちの所へ戻ってきながら、彼は苦笑いしてそう言った。
「あんな高難易度の曲、間違えられても気づかないよー」
僕のパートナーは、そう言って演奏を終えた彼を労っていた。
「……ねぇ」
「ん?」
「あのっ、ピアノ……すごかった……。他に何弾けるの?僕、ブラームスのラプソディが好きなんだけど……!」
僕がそう言うと、アイツは少し驚いた様子だったけれど、すぐにいつもの人懐っこい笑顔になる。
「一番と二番、どっちが好き?うちに来てくれたらいくらでも弾いてあげるよ」
「え!ほんと?」
「いいよー。二人でおいでよ」
ニコニコしながらそう言った彼に、僕のパートナーは『カンパネラ弾いて』と素人でも難しいのが分かる曲をリクエストしていた。
……今日は、アイツの意外な一面が見られて、ちょっとカッコいいなぁと思った。友達として、ちょっと好きになったかもしれない。