Richromatic
「そういうとこ、嫌い」
「ハイ」
「すぐ終わるって言ってたのに」
「ハイ。ごめんなさい」
「……これ、先月もやった」
「ハイ。重々承知しております」
「先に言ってよ」
「……言いましたけど?」
「すぐ終わるって言ったのそっちだよ?」
「いやその、ファイルが壊れてたとかイレギュラーでしてね……」
「むー……」
ただの彼のワガママ。
だとは思ってはいるけれど、どうも憎めないのは俺のフィルターのせいなのだろう。
持ち帰り仕事は、一時間もあれば終わる予定だったから持ち帰ってきたのに、同僚に渡されたデータファイルが壊れていたせいできちんと開けない。そのやりとりだけで時間を取ってしまい、仕事終わりで家に来た彼が構って貰えなくて怒っているというのが今の状況。
「いつも、来ると僕は放っておかれてる……。そういうのは趣味じゃないんだけど」
「好きで放っておいてるわけじゃないんだけどなぁ…」
「いいから早く終わらせてよ……。僕、全部見てるよ?」
「見てても内容分からないでしょ?」
「分からない」
「それなら、リビングでテレビ見てていいのに」
「嫌だね。早く終わらせて欲しいもん」
「もぅ……」
彼の刺々しい言葉とは裏腹に、彼は俺を後ろからしっかりと抱き締めている。
何なら少し息苦しいくらい、抱き締められている。
早く終わらせて欲しいなら、少し腕の力を緩めて欲しいとは思うけれど、触れ合う体温から、彼の気持ちも伝わる。
……嫌い だとか言いながら、彼は絶対離れない。
それは、俺も分かってて言わせてるところはあると思う。
彼の腕を緩めて、くるりと椅子の向きを変える。
向き合ったことで彼が少し驚いた表情を見せるが、俺は構わず彼の両手首を掴む。
「そうやって可愛いことばっか言われると、煽られてる気になっちゃう」
「僕そんなつもりは無いけど?」
「へぇ?じゃあ、このまま放っておいてもいいよ?」
「それは嫌だ……」
そう言って困った表情を見せた彼が愛らしくてそのまま抱き締めた。
ワガママをぶつけながらくっついてくる彼の裏腹な態度より、優しいフリして繋ぎ止めておこうとしている俺の方がタチが悪いのかもしれないな……。
そう思いながら、君を強く抱き締めて、黒く渦巻いた気持ちは胸の奥に仕舞い込んだ。
「ハイ」
「すぐ終わるって言ってたのに」
「ハイ。ごめんなさい」
「……これ、先月もやった」
「ハイ。重々承知しております」
「先に言ってよ」
「……言いましたけど?」
「すぐ終わるって言ったのそっちだよ?」
「いやその、ファイルが壊れてたとかイレギュラーでしてね……」
「むー……」
ただの彼のワガママ。
だとは思ってはいるけれど、どうも憎めないのは俺のフィルターのせいなのだろう。
持ち帰り仕事は、一時間もあれば終わる予定だったから持ち帰ってきたのに、同僚に渡されたデータファイルが壊れていたせいできちんと開けない。そのやりとりだけで時間を取ってしまい、仕事終わりで家に来た彼が構って貰えなくて怒っているというのが今の状況。
「いつも、来ると僕は放っておかれてる……。そういうのは趣味じゃないんだけど」
「好きで放っておいてるわけじゃないんだけどなぁ…」
「いいから早く終わらせてよ……。僕、全部見てるよ?」
「見てても内容分からないでしょ?」
「分からない」
「それなら、リビングでテレビ見てていいのに」
「嫌だね。早く終わらせて欲しいもん」
「もぅ……」
彼の刺々しい言葉とは裏腹に、彼は俺を後ろからしっかりと抱き締めている。
何なら少し息苦しいくらい、抱き締められている。
早く終わらせて欲しいなら、少し腕の力を緩めて欲しいとは思うけれど、触れ合う体温から、彼の気持ちも伝わる。
……嫌い だとか言いながら、彼は絶対離れない。
それは、俺も分かってて言わせてるところはあると思う。
彼の腕を緩めて、くるりと椅子の向きを変える。
向き合ったことで彼が少し驚いた表情を見せるが、俺は構わず彼の両手首を掴む。
「そうやって可愛いことばっか言われると、煽られてる気になっちゃう」
「僕そんなつもりは無いけど?」
「へぇ?じゃあ、このまま放っておいてもいいよ?」
「それは嫌だ……」
そう言って困った表情を見せた彼が愛らしくてそのまま抱き締めた。
ワガママをぶつけながらくっついてくる彼の裏腹な態度より、優しいフリして繋ぎ止めておこうとしている俺の方がタチが悪いのかもしれないな……。
そう思いながら、君を強く抱き締めて、黒く渦巻いた気持ちは胸の奥に仕舞い込んだ。