Richromatic

今日は、いつもより早く上がれて良かった。今夜は彼の家に泊まるからと浮き足立っていた。
途中で空を見上げると、夕焼けに染められたうろこ雲。紅葉色に染まる雲がとても綺麗だなと思いながら歩いていた。
あぁ、でもうろこ雲って天気が崩れるんだっけ?
明日は雨なのかな……?まぁ、明日休みだし、雨が降ったところで大したことない。

彼の家に着くと、彼はソファで横になっていた。
「大丈夫?」
僕がそう声を掛けると、彼の瞼がふるふると震えて、ゆっくり目が開く。
「あ、ごめんね。出迎えもしなくて……」
そう言いながら、彼はゆっくりと身体を起こした。
「ううん。鍵開けて入ってきたの僕だし……。大丈夫?具合悪いの?」
荷物を部屋の隅に置いて、彼の隣に座る。
そして、俯く彼の顔を覗き込んだ。
「珍しく頭が痛くて……薬は飲んだけどまだ効いてくれなくて」
「そっか……途中で見たんだけど、うろこ雲出てた。もしかしたら、気圧が下がってるせいかもね」
「あぁ、それだ。……あと疲れだね」
そう言って苦笑いをする彼の頭を、僕はそっと撫でた。
「ごめんね、具合悪いなら、僕、今日は帰るよ……」
誰かが居たら気を遣わせてしまう と思ったから、そう言ったのだけど、彼は小さく頭を横に振った。
「いいの……いて」
「えっ……でも……」
僕が言い淀むと、彼の腕が僕の身体を捕まえる。
「お願い。いて。こういう時は、一人の方がしんどいから……」
僕を抱きしめる腕は、いつもより弱々しく感じた。いつもと違う彼の様子がとても愛おしく感じて、彼の背中を抱き返した。
「うん……わかった。大丈夫、ずっと側にいるから」
僕がそう言うと、顔は抱きしめられているせいで見えないけれど、彼が小さく頷いたのは分かった。

それから、彼と二人、静かに過ごしていた。
夜が深まった頃、窓の外から微かに雨音が聞こえた気がした……。

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