Richromatic

「こういうの好き?」
彼がそう言って出してきたのは、袋に入ったさくらんぼ大のコロンとしたくすんだ緑色の塊。
「なぁに?それ」
「職場の人からもらったお土産。中国茶なんだけど、お湯を入れると花が咲くんだって。なんて言ったけな?水中花みたいなやつ」
「あぁ、工芸茶だね。随分とお洒落なの貰ったね」
「うん。けど、俺、紅茶とかハーブティーあんまり飲まないから、君が来た時に出そうかと思って」
「あぁ、そっか。じゃあ、頂くね」
僕がそう言うと、彼は微笑んでキッチンへ向かった。その間、僕は何をするわけでもなくソファで彼を待つ。

彼は、僕の好みをすぐ覚えてくれる。
随分前に言った苦手なものもちゃんと覚えているし、苦手だからと僕がこっそり皿の脇に寄せたもものまでよく見ている。
だから、一緒にいて心地良く感じるのだろう。
暫くして、彼がカップを二つ持って戻ってきた。ローテーブルにカップを置くと彼もソファに掛ける。
「透明の耐熱ガラスのカップなんて気の利いたものは無いから、いつものマグカップでごめんね」
彼はそう言って苦笑いをする。
「見た目が楽しめるような茶器なんてよっぽど好きな人じゃないと持ってないよ」
僕がそう返すと、彼は『そっか』と小さく笑う。

マグカップの中を覗くとさっきの丸い塊。
じぃっ……と見ていると、お湯の中で葉が一枚一枚少しずつ開いていく。
その間に、湯気と共に茉莉花の少しだけ苦味もある華やかな香りが立ち上ってきた。
このお茶の香りも良い香りだな……。
どうやって、開いていくのかな……?きっと全部開くと見た目もすごく綺麗なんだろう……。
ただ、お茶として香りと味を楽しむだけじゃなくて見た目も楽しむなんて粋なものだなぁ……なんて思っていたら、こめかみの辺りに、柔らかい感触のものが触れた。

「えっ? 今……」
驚いて彼の方を振り向くと、ニコニコと笑っている
「あんまりにもじーっと見ているから、口が半開きになってたよ。可愛いなぁってつい……」
そう言われて、恥ずかしくなって思わず口を手で隠してしまった。
確かに夢中になって見ていたけれど、口が開いてたのは気づかなかった……。
「だからって急にするのはナシだよ……」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど」
未だに恥ずかしさの方が大きくて、彼の顔が見られずに、手元のマグカップに視線を落とす。
カップの中では、茶葉の内側から雛菊みたいな薄桃色の花がふわふわと開き出していて、なんだか今の僕みたいだな……と思った。

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