夢と現と妄想と〜Rêve et réalité et illusion et〜
彼と暮らし始めて、数ヶ月が経った。
自宅から自分のお店まで歩いて行ける範囲という生活から、少しだけ電車に乗って通勤する生活に変わったけれど、だいぶ慣れてきた。
車が使えればきっと楽なのだろうけど、お店の周りに駐車場無いからなぁ。
そもそも車は持っていない。レイさんの車は怖くて運転出来ないし、ペーパードライバー歴が長いからもう乗れる自信もないし。
なによりも、大好きな彼と、可愛い犬との生活があれば、通勤の少々の不便なんかどうでもよくなる。
今日も、彼も私も仕事から帰って来て、シャワーも済ませて、お酒を飲みながらのんびりしていた。
私が、ビールを片手にいつものようにスマホでニュースを見ていると……。
「わっ!」
あまりにもビックリしすぎて、大きな声を出してしまった。
「カノンちゃん、どうしたの?」
「あのあのっ……レイさん、とうとう書かれました」
スマホのニュースの画面を彼に見せる。
『LuarギタリストREI 新恋人発覚 10歳年下女性と既に同棲中』
という見出し。こういうゴシップは、憶測で品の無い言葉を羅列してるから大嫌い。
「その記事、カノンちゃんの詳細は書いてある?」
彼がそう言うので、あまり読みたくないが、そのニュースの見出しをタップして続きを読む。
「んーと……まぁ、10歳年下の一般女性。都内のエステサロンで働く癒し系美女としか。美女って本当かな……?」
今時、癒し系美女って言わないだろう……。そして私の店はエステサロンではない。アロマテラピーサロンだ。
「うーん、それくらいなら、カノンちゃんだって特定できないと思うからほっといていいよ。俺も気にしない」
「そうですか……。いやでも、なんで私の年齢当ててるんだ……アイツかな……?」
一庶民がターゲットにされることはないけど、いざ当事者になると、マスコミの情報収集力に気持ち悪さを感じる……。そして、その仕事だった元彼のせいじゃないかと、また思い出して不快な気持ちになる。
「これは……お家の近くに飲みに行った時ですかね?都内の飲食店でって書いてあるから」
「そうかもね。水族館じゃなくて良かったね」
以前、水族館の帰りに元彼に会った時のことを言っているのだろう。
あの時のレイさん、ほんっっっとうに怖かったからな……。
それでも記事書いてたら、アイツの図太さは賞賛に値するでしょう。
「あ、事務所にも聞いてるみたいですね、この記事」
「あぁ、事務所のコメントは、本人に任せています。でしょ?」
「そうです。よく分かりましたね」
「彼女できるくらいでイチイチまともなコメントなんか出さないよ」
少し面倒な様子でそう言ったレイさん。
よくあることなのだろうけれど、音楽と違う方面の取材なんか、面倒以外、何物でもないのだろう。ファンだってそんな記事読みたくないのに、一体誰に向けての記事なんだか。
「もし、カノンちゃんのお店にそういう人が来たら教えて。というか、営業妨害だと、警察呼んでもいいかも」
「わかりました」
こういう話になると、声音は穏やかでも、レイさんの目が笑ってないから怖い……。
「君に迷惑をかけるようなことはさせないから……」
そう言って、彼は私を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。
「……」
何か言おうと口を開きかけたけれど、言ってはいけない気がして言葉を飲み込んだ。
「カノンちゃん?」
私が黙り込んだせいか、彼が私の顔を覗き込む。
「っ……大丈夫です。なんでもないです」
「…………俺に迷惑かけるなら、別れた方がいいんじゃないかとか思ってる?」
「ぅひっ……」
図星すぎて変な声が出た。
「ははは……何その変な声。面白いなぁ……」
「ぁぅ……その……」
私が慌てふためいていると、黙って、と言うように強く抱きしめられる。
「君は自分の気持ちに蓋をしすぎると思うなぁ……」
「え?」
「変な声出したのは図星なんでしょ? でも、本当に別れたいとは思ってないでしょ? 違う?」
もう、何もかもお見通しだった。今更取り繕ったところで、どうにもならないと思った。
だから……。
「……別れたくない……でも、追われるのは嫌です」
「心配しないでいいよ。コソコソするから追われるんだよ。堂々と付き合ってたらいい」
そう言うレイさんの口調は穏やかだった。けど、一つだけ心配なことが浮かぶ。
「……他のファンの人に刺されないですかね……? 私……」
「あー……うーん、とりあえず黙ってれば大丈夫じゃないかな? 写真撮られても、一般人は顔出されないから」
「うぅ……今のご時世、SNSで特定されるから怖いなぁ……」
別に、SNSで彼のことは書いてないけれど。今更ながら、ゴシップ探しの記者より、REIのファンの方が怖くなってきた。
「REI強火担当のファンとか絶対怖いですよぉ……。特定されたら刺されますよぉ」
「あれ、カノンちゃんは強火じゃないの? 弱火?」
「いえ、REIに対しては、業火ですよ」
そう即答したら、レイさんがゲラゲラ笑った。
「大丈夫。何も気にしないで。俺だってブレイクした頃は何かと大変だったけど、ファンの人たちもいい年齢 だし、そんな危害を加えるようなことはないと思うよ」
「そうですか……?」
「うん。それに、俺が好きな子なんだから、俺の彼女だって堂々としててよ」
そっと顔を近づけて彼がそう言うと、唇が重なった。
「はい……」
間違いなく顔が赤くなっているから、俯いたままそう返事をした。
正直、一緒に住んでいることすら、未だに信じられないし、堂々とできる自信もないけれど、彼の気持ちが嬉しくて、内心悶えていた……。
自宅から自分のお店まで歩いて行ける範囲という生活から、少しだけ電車に乗って通勤する生活に変わったけれど、だいぶ慣れてきた。
車が使えればきっと楽なのだろうけど、お店の周りに駐車場無いからなぁ。
そもそも車は持っていない。レイさんの車は怖くて運転出来ないし、ペーパードライバー歴が長いからもう乗れる自信もないし。
なによりも、大好きな彼と、可愛い犬との生活があれば、通勤の少々の不便なんかどうでもよくなる。
今日も、彼も私も仕事から帰って来て、シャワーも済ませて、お酒を飲みながらのんびりしていた。
私が、ビールを片手にいつものようにスマホでニュースを見ていると……。
「わっ!」
あまりにもビックリしすぎて、大きな声を出してしまった。
「カノンちゃん、どうしたの?」
「あのあのっ……レイさん、とうとう書かれました」
スマホのニュースの画面を彼に見せる。
『LuarギタリストREI 新恋人発覚 10歳年下女性と既に同棲中』
という見出し。こういうゴシップは、憶測で品の無い言葉を羅列してるから大嫌い。
「その記事、カノンちゃんの詳細は書いてある?」
彼がそう言うので、あまり読みたくないが、そのニュースの見出しをタップして続きを読む。
「んーと……まぁ、10歳年下の一般女性。都内のエステサロンで働く癒し系美女としか。美女って本当かな……?」
今時、癒し系美女って言わないだろう……。そして私の店はエステサロンではない。アロマテラピーサロンだ。
「うーん、それくらいなら、カノンちゃんだって特定できないと思うからほっといていいよ。俺も気にしない」
「そうですか……。いやでも、なんで私の年齢当ててるんだ……アイツかな……?」
一庶民がターゲットにされることはないけど、いざ当事者になると、マスコミの情報収集力に気持ち悪さを感じる……。そして、その仕事だった元彼のせいじゃないかと、また思い出して不快な気持ちになる。
「これは……お家の近くに飲みに行った時ですかね?都内の飲食店でって書いてあるから」
「そうかもね。水族館じゃなくて良かったね」
以前、水族館の帰りに元彼に会った時のことを言っているのだろう。
あの時のレイさん、ほんっっっとうに怖かったからな……。
それでも記事書いてたら、アイツの図太さは賞賛に値するでしょう。
「あ、事務所にも聞いてるみたいですね、この記事」
「あぁ、事務所のコメントは、本人に任せています。でしょ?」
「そうです。よく分かりましたね」
「彼女できるくらいでイチイチまともなコメントなんか出さないよ」
少し面倒な様子でそう言ったレイさん。
よくあることなのだろうけれど、音楽と違う方面の取材なんか、面倒以外、何物でもないのだろう。ファンだってそんな記事読みたくないのに、一体誰に向けての記事なんだか。
「もし、カノンちゃんのお店にそういう人が来たら教えて。というか、営業妨害だと、警察呼んでもいいかも」
「わかりました」
こういう話になると、声音は穏やかでも、レイさんの目が笑ってないから怖い……。
「君に迷惑をかけるようなことはさせないから……」
そう言って、彼は私を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。
「……」
何か言おうと口を開きかけたけれど、言ってはいけない気がして言葉を飲み込んだ。
「カノンちゃん?」
私が黙り込んだせいか、彼が私の顔を覗き込む。
「っ……大丈夫です。なんでもないです」
「…………俺に迷惑かけるなら、別れた方がいいんじゃないかとか思ってる?」
「ぅひっ……」
図星すぎて変な声が出た。
「ははは……何その変な声。面白いなぁ……」
「ぁぅ……その……」
私が慌てふためいていると、黙って、と言うように強く抱きしめられる。
「君は自分の気持ちに蓋をしすぎると思うなぁ……」
「え?」
「変な声出したのは図星なんでしょ? でも、本当に別れたいとは思ってないでしょ? 違う?」
もう、何もかもお見通しだった。今更取り繕ったところで、どうにもならないと思った。
だから……。
「……別れたくない……でも、追われるのは嫌です」
「心配しないでいいよ。コソコソするから追われるんだよ。堂々と付き合ってたらいい」
そう言うレイさんの口調は穏やかだった。けど、一つだけ心配なことが浮かぶ。
「……他のファンの人に刺されないですかね……? 私……」
「あー……うーん、とりあえず黙ってれば大丈夫じゃないかな? 写真撮られても、一般人は顔出されないから」
「うぅ……今のご時世、SNSで特定されるから怖いなぁ……」
別に、SNSで彼のことは書いてないけれど。今更ながら、ゴシップ探しの記者より、REIのファンの方が怖くなってきた。
「REI強火担当のファンとか絶対怖いですよぉ……。特定されたら刺されますよぉ」
「あれ、カノンちゃんは強火じゃないの? 弱火?」
「いえ、REIに対しては、業火ですよ」
そう即答したら、レイさんがゲラゲラ笑った。
「大丈夫。何も気にしないで。俺だってブレイクした頃は何かと大変だったけど、ファンの人たちもいい
「そうですか……?」
「うん。それに、俺が好きな子なんだから、俺の彼女だって堂々としててよ」
そっと顔を近づけて彼がそう言うと、唇が重なった。
「はい……」
間違いなく顔が赤くなっているから、俯いたままそう返事をした。
正直、一緒に住んでいることすら、未だに信じられないし、堂々とできる自信もないけれど、彼の気持ちが嬉しくて、内心悶えていた……。