夢と現と妄想と〜Rêve et réalité et illusion et〜
「プーちゃん、寝ちゃいましたね」
リビングの片隅でプーちゃんが丸まって気持ちよさそうに寝ている。散歩でたくさん走ったからかな?寝ている姿も可愛いなぁ。
散歩から帰ってきて、二人でご飯を作って食べて、今はソファに座ってゆっくりしている。
今、レイさんが食後のコーヒーを淹れてくれている。
先程、地下にあるスタジオにしている部屋も少し見せてもらった。
ライブで見る彼のギターが並んでいて、つい、はしゃいでしまった。
「しばらくは起きないと思うよ。はい、どうぞ」
そう言って、レイさんがローテーブルにコーヒーを置いてくれた。
「ありがとうございます」
コーヒーの良い香りが鼻を擽り、思わず深呼吸をする。
カップを手に取り、少し息を吹きかけて、冷ましてから口をつけた。
「熱かった? ごめんね」
「あ、いえ!私、猫舌なんですよ。すぐ口の中ヤケドするから……」
「そうなんだ。覚えておくね」
そう言いながら、彼が隣に座り、私の肩を抱き寄せる。
「やっと、プーが寝たから、カノンちゃんとゆっくりできる」
そう言って、私の肩に頭を寄せる彼。
「え?プーちゃん起きてたって、ゆっくりできるじゃないですか」
「だってカノンちゃん、プーばっかり構うから……」
「ふふっ。ワンコに妬くんですか?」
「相手がカノンちゃんならね」
「もう。自分の飼い犬なのに」
そう言って、二人で笑い合う。
「あぁ、そういえば、カノンちゃんが久しぶりだね。俺の家に来た人。あ、トキはしょっちゅう来るけど……」
そう言って苦笑いする彼。
「そうなんですか? でも、リーダーがノーカウントなの可哀想」
「いいんだよ。別にアイツに来て欲しいわけじゃないもん」
トキさんは、Luarのリーダーで、レイさんと同じギタリスト。
レイさんの家にしょっちゅう来るなんて、地下の部屋でも使うのかな……?
少々、鬱陶しそうな様子でそう言った彼を見て、なんとなく二人の関係性が垣間見えて、微笑ましくなった。
「ふふふ。私もあんまり家に人呼ばないタイプですよ?」
私は単純に掃除が苦手で、多少ごちゃついてても自分ではどこに何があるから分かっているから普段はあまり綺麗な部屋ではない……。
なので、人を呼ばないのだけど。
「へぇ……その割には、俺をすぐ入れてくれたね」
「あなたは外で会う方がリスキーだからです!毎回慌てて掃除をですね……!」
「そうかなー?気にしすぎだよー」
「レイさんが、気にしなさすぎですよ」
私の言葉に笑う彼。
今だって、信じ難い状況だというのに……。
私のロックスターの家に滞在しているってどんな夢見てるんだ!
と、思うところですよ。
すると、彼が向き合うように座り直して、私の手をそっと取る。
「俺だって、普通にカノンちゃんと出かけたいと思ってるんだけどな……。カノンちゃんは、あまり出かけるのは好きじゃない?」
じっと見つめながらそう言われて、心臓が跳ねた。
「えっ……わっ、私も出かけたいですよ!ただ、ちょっと心配なだけで……。ほら、すぐ週刊誌とか書くし!」
「別に、気にしないよ。撮られても、カノンちゃんは一般人だから、詳しくは書かれないし」
「それは……そうですけど……」
「俺、カノンちゃんのこと……もっと知りたい」
取られている手がギュッと握られる。だんだん顔が熱くなってくるのが自分でも分かる。
「えっと……」
「じゃあ、次会う時は外ね♡何処に行きたい?何が好き?」
彼の言葉に動揺して、何も言葉が出てこないうちに、次に会う予定が決まってしまった。
デートプランを考えてもらうだなんて、久しぶりすぎて、色んな意味で涙が出そうです。
「行きたいところ……たくさんあるんですけど……水族館、行きたいです。都内のじゃなくて、大きいところ」
「へぇ。水族館好きなんだ。いいね、行こう」
何処の水族館がいいかなー? なんて言いながら、スマホで早速調べてるレイさん。
このテンションじゃ、明日の朝には行こうと言い出しそうである。
「レイさん、あの……」
「ん?」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「ふふっ……そんなに畏まらないで。俺が家に呼ぶくらいなんだから……」
「?」
分からない、という顔をすると、ギュッと抱き寄せられた。
「カノンちゃんのこと、それだけ好きだってこと」
「ぁっ……‼︎」
せっかく抱きしめられたのに、彼の言葉に驚いて思わず離れてしまった。
「あれ? どうしたの?」
「今!好きって‼︎」
「うん。言ったよ?」
「レイさん、初めて、ちゃんと 好き って言ってくれた!」
全身がゾワゾワしている。鳥肌がものすごく立ってる。
今までハッキリ言ってはくれなかったから、そういうこと口にしない人なんだと、勝手に思っていた。
「そうだったっけ?」
「そうですよ!お願い!もう一回言ってください!」
「えっ、どうしよかな……?」
「言ってぇぇぇ。もう一回聞きたいぃぃ」
レイさんにくっつきながらゴネてみると、彼に、分かった分かったと宥められて……。
「あとで、ベッドで好きなだけ言ってあげるよ……華音」
と、耳元で囁かれた。
「なっ……!」
「ふふふっ。そんなに真っ赤にならなくても……」
「だって……!」
囁くのは反則ですよ……。そう言いながらレイさんの胸に顔を埋める。彼は少し笑いながら、優しく頭を撫でてくれた。
「ねぇ……そろそろ向こう、行こうか?」
「………」
「なんで黙っちゃうの?」
「今更ですが、なんか恥ずかしくなってきたので……」
「そう?でも、連れてっちゃうよ」
私の手を引いて立ち上がるレイさん。
ニコニコしているけど、なんとなく抗えない雰囲気だったので、おとなしくついて行った。
***
カチッ。
レイさんは、ベッドサイドのライトを付けて、そのすぐ側にあるディフューザーのスイッチも入れていた。
「ディフューザー、つけて寝るんですね」
「カノンちゃんの家にもあったでしょ?あれ、いいなと思って。俺、ヴォーカルじゃないけど、風邪ひきやすいから、いつもは喉に良さそうなの選んでつけてる」
そのうちに、フワッといい香りがしてきた。
でも、『喉に良さそうなやつ』じゃない……。
「今日は……ジャスミンとバニラのブレンドですか?」
感じ取った香りを口にすると、レイさんの目が一瞬、丸くなる。
「あ、さすがだね。お店の人に聞いたの。女の子が好きそうなやつって」
「ふふっ……ありがとうございます。良い香り……」
二人でベッドに腰掛けた。
私の為と、香りを選んでくれたのが嬉しくて彼に抱きついた。
すると、ゆっくりと彼の手が背中にまわされた。
「ずっと、黙っててごめんね……カノンちゃんも彼氏いたし、人のモノに手を出しちゃったと思ってたから……。なかなか言うタイミング掴めなくて……」
ぽつぽつと話し出したレイさん。私は、彼の背中に回した手に力をこめる。
「意地悪だなと思いましたけど……。怒ってないですよ……。元彼とも、殆ど会ってなかったし……」
「そっか……」
彼の表情を伺おうと、顔を上に向けると、ゆっくりと唇が重なった……。そして、そのまま、ベッドに倒れ込んだ。
「ねぇ、レイさん……もう意地悪しないでくださいね」
私がそう言うと、くすっとレイさんが笑った。
「どうかな……? 此処だと意地悪しちゃうかも」
「私、優しい方がいいです……」
「俺、好きな子には、ちょっと意地悪したいタイプ」
「えぇー、優しくしてください」
「いや」
少し強引に唇が重なる。何度も繰り返されるキスはだんだん深くなっていく。
けれど、私の髪を撫でる手つきは優しかった……。
「……レイさん」
「ん?」
「好きです……」
「俺も好き……」
今夜はこのまま、甘ったるい香りと彼の熱に溺れて、沈んでしまいたい……。
このまま現実に還 りたくない……。
なんて、頭の片隅で思った……。
リビングの片隅でプーちゃんが丸まって気持ちよさそうに寝ている。散歩でたくさん走ったからかな?寝ている姿も可愛いなぁ。
散歩から帰ってきて、二人でご飯を作って食べて、今はソファに座ってゆっくりしている。
今、レイさんが食後のコーヒーを淹れてくれている。
先程、地下にあるスタジオにしている部屋も少し見せてもらった。
ライブで見る彼のギターが並んでいて、つい、はしゃいでしまった。
「しばらくは起きないと思うよ。はい、どうぞ」
そう言って、レイさんがローテーブルにコーヒーを置いてくれた。
「ありがとうございます」
コーヒーの良い香りが鼻を擽り、思わず深呼吸をする。
カップを手に取り、少し息を吹きかけて、冷ましてから口をつけた。
「熱かった? ごめんね」
「あ、いえ!私、猫舌なんですよ。すぐ口の中ヤケドするから……」
「そうなんだ。覚えておくね」
そう言いながら、彼が隣に座り、私の肩を抱き寄せる。
「やっと、プーが寝たから、カノンちゃんとゆっくりできる」
そう言って、私の肩に頭を寄せる彼。
「え?プーちゃん起きてたって、ゆっくりできるじゃないですか」
「だってカノンちゃん、プーばっかり構うから……」
「ふふっ。ワンコに妬くんですか?」
「相手がカノンちゃんならね」
「もう。自分の飼い犬なのに」
そう言って、二人で笑い合う。
「あぁ、そういえば、カノンちゃんが久しぶりだね。俺の家に来た人。あ、トキはしょっちゅう来るけど……」
そう言って苦笑いする彼。
「そうなんですか? でも、リーダーがノーカウントなの可哀想」
「いいんだよ。別にアイツに来て欲しいわけじゃないもん」
トキさんは、Luarのリーダーで、レイさんと同じギタリスト。
レイさんの家にしょっちゅう来るなんて、地下の部屋でも使うのかな……?
少々、鬱陶しそうな様子でそう言った彼を見て、なんとなく二人の関係性が垣間見えて、微笑ましくなった。
「ふふふ。私もあんまり家に人呼ばないタイプですよ?」
私は単純に掃除が苦手で、多少ごちゃついてても自分ではどこに何があるから分かっているから普段はあまり綺麗な部屋ではない……。
なので、人を呼ばないのだけど。
「へぇ……その割には、俺をすぐ入れてくれたね」
「あなたは外で会う方がリスキーだからです!毎回慌てて掃除をですね……!」
「そうかなー?気にしすぎだよー」
「レイさんが、気にしなさすぎですよ」
私の言葉に笑う彼。
今だって、信じ難い状況だというのに……。
私のロックスターの家に滞在しているってどんな夢見てるんだ!
と、思うところですよ。
すると、彼が向き合うように座り直して、私の手をそっと取る。
「俺だって、普通にカノンちゃんと出かけたいと思ってるんだけどな……。カノンちゃんは、あまり出かけるのは好きじゃない?」
じっと見つめながらそう言われて、心臓が跳ねた。
「えっ……わっ、私も出かけたいですよ!ただ、ちょっと心配なだけで……。ほら、すぐ週刊誌とか書くし!」
「別に、気にしないよ。撮られても、カノンちゃんは一般人だから、詳しくは書かれないし」
「それは……そうですけど……」
「俺、カノンちゃんのこと……もっと知りたい」
取られている手がギュッと握られる。だんだん顔が熱くなってくるのが自分でも分かる。
「えっと……」
「じゃあ、次会う時は外ね♡何処に行きたい?何が好き?」
彼の言葉に動揺して、何も言葉が出てこないうちに、次に会う予定が決まってしまった。
デートプランを考えてもらうだなんて、久しぶりすぎて、色んな意味で涙が出そうです。
「行きたいところ……たくさんあるんですけど……水族館、行きたいです。都内のじゃなくて、大きいところ」
「へぇ。水族館好きなんだ。いいね、行こう」
何処の水族館がいいかなー? なんて言いながら、スマホで早速調べてるレイさん。
このテンションじゃ、明日の朝には行こうと言い出しそうである。
「レイさん、あの……」
「ん?」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「ふふっ……そんなに畏まらないで。俺が家に呼ぶくらいなんだから……」
「?」
分からない、という顔をすると、ギュッと抱き寄せられた。
「カノンちゃんのこと、それだけ好きだってこと」
「ぁっ……‼︎」
せっかく抱きしめられたのに、彼の言葉に驚いて思わず離れてしまった。
「あれ? どうしたの?」
「今!好きって‼︎」
「うん。言ったよ?」
「レイさん、初めて、ちゃんと 好き って言ってくれた!」
全身がゾワゾワしている。鳥肌がものすごく立ってる。
今までハッキリ言ってはくれなかったから、そういうこと口にしない人なんだと、勝手に思っていた。
「そうだったっけ?」
「そうですよ!お願い!もう一回言ってください!」
「えっ、どうしよかな……?」
「言ってぇぇぇ。もう一回聞きたいぃぃ」
レイさんにくっつきながらゴネてみると、彼に、分かった分かったと宥められて……。
「あとで、ベッドで好きなだけ言ってあげるよ……華音」
と、耳元で囁かれた。
「なっ……!」
「ふふふっ。そんなに真っ赤にならなくても……」
「だって……!」
囁くのは反則ですよ……。そう言いながらレイさんの胸に顔を埋める。彼は少し笑いながら、優しく頭を撫でてくれた。
「ねぇ……そろそろ向こう、行こうか?」
「………」
「なんで黙っちゃうの?」
「今更ですが、なんか恥ずかしくなってきたので……」
「そう?でも、連れてっちゃうよ」
私の手を引いて立ち上がるレイさん。
ニコニコしているけど、なんとなく抗えない雰囲気だったので、おとなしくついて行った。
***
カチッ。
レイさんは、ベッドサイドのライトを付けて、そのすぐ側にあるディフューザーのスイッチも入れていた。
「ディフューザー、つけて寝るんですね」
「カノンちゃんの家にもあったでしょ?あれ、いいなと思って。俺、ヴォーカルじゃないけど、風邪ひきやすいから、いつもは喉に良さそうなの選んでつけてる」
そのうちに、フワッといい香りがしてきた。
でも、『喉に良さそうなやつ』じゃない……。
「今日は……ジャスミンとバニラのブレンドですか?」
感じ取った香りを口にすると、レイさんの目が一瞬、丸くなる。
「あ、さすがだね。お店の人に聞いたの。女の子が好きそうなやつって」
「ふふっ……ありがとうございます。良い香り……」
二人でベッドに腰掛けた。
私の為と、香りを選んでくれたのが嬉しくて彼に抱きついた。
すると、ゆっくりと彼の手が背中にまわされた。
「ずっと、黙っててごめんね……カノンちゃんも彼氏いたし、人のモノに手を出しちゃったと思ってたから……。なかなか言うタイミング掴めなくて……」
ぽつぽつと話し出したレイさん。私は、彼の背中に回した手に力をこめる。
「意地悪だなと思いましたけど……。怒ってないですよ……。元彼とも、殆ど会ってなかったし……」
「そっか……」
彼の表情を伺おうと、顔を上に向けると、ゆっくりと唇が重なった……。そして、そのまま、ベッドに倒れ込んだ。
「ねぇ、レイさん……もう意地悪しないでくださいね」
私がそう言うと、くすっとレイさんが笑った。
「どうかな……? 此処だと意地悪しちゃうかも」
「私、優しい方がいいです……」
「俺、好きな子には、ちょっと意地悪したいタイプ」
「えぇー、優しくしてください」
「いや」
少し強引に唇が重なる。何度も繰り返されるキスはだんだん深くなっていく。
けれど、私の髪を撫でる手つきは優しかった……。
「……レイさん」
「ん?」
「好きです……」
「俺も好き……」
今夜はこのまま、甘ったるい香りと彼の熱に溺れて、沈んでしまいたい……。
このまま現実に
なんて、頭の片隅で思った……。