夢と現と妄想と〜Rêve et réalité et illusion et〜

「はい、着いたよ」
車のエンジンが切られる。
レイさんの車で迎えに来てもらって、今日は彼の家に来た。
想像以上に大きな家で驚いている。
まぁ、高級車がガレージに並んでるし……。改めて、住む世界が違うと思ってしまう。
「大きいお家ですね」
「まぁ、殆ど使ってないところもあるけどね」
苦笑いしながら、彼はドアの鍵を開けて、私を中に入れてくれた。
すると、
「わんっ!」
 あ、
「わんわんだ!」

奥の部屋から玄関に走ってきた、黒い毛のチワワに思わずそう言った。かわいい‼︎ 写真で見たよりもフワフワで可愛い! ワシワシ撫でていたら、レイさんが吹き出した。
「カノンちゃん、わんわんって……」
「あ、やだ。つい……」
未だに、わんわんとか、にゃーにゃーとか言うのが抜けない……。いい歳して……。しかも、こんなところで露呈してしまった。恥ずかしい……。
「ふふっ。意外と子供っぽいところもあるんだね。可愛い」
くすくすと笑いながら、レイさんはそう言った。いくら、レイさんが可愛いと言ってくれたとしても、やっぱり恥ずかしかった。
靴を脱いで、お家にお邪魔する。
可愛いチワワ……プーちゃんも一緒にリビングに向かった。


リビングに入ると、レイさんに促されて、リビングのソファに掛けた。すると、プーちゃんが、膝に飛び乗ってきた。
「プーちゃん、人懐っこいですね」
「まぁね。でもいきなり初対面でこんなにごきげんなのは初めてかも。カノンちゃんは、動物好き?」
「大好きです!」
「じゃあ、プーも分かるんだね」
笑いながらレイさんがそう言った。
何故、プーちゃんという名前なのか聞いたら、プープー鼻を鳴らして寝ていたから、と、しょうもない理由で付けられていた……。プーちゃん気の毒。

「プーちゃんおいで!」
やはり、動物は可愛い。
自分の家ではなかなか飼えないから、モフモフできるの嬉しい♡
「すっかり仲良しだね」
レイさんが、コーヒーを持ってきながらそう言った。
「あ、ありがとうございます」
「良かったら、あとで散歩行く?」
「行きます!」
思わず即答してしまった。犬の散歩ってあまりやったことないから、すっごくやりたい!
「じゃあ、少ししたら行こうか」
「はい」

***

 ぶらぶらと近所を歩いて、大きな公園に来ていた。
こんな大きな公園の近くに住んでるなんていいなぁ。休日なんか、ここでボーッとしていたいわぁ……。なんて、のんびり思っていたら、グッと思いきり引っ張られた。

「待ってー、プーちゃん速いよー!」
そう、プーちゃんに引っ張られ、公園を走っている。
小さいのによく走る! そして意外と力がある。もはや、私はこの小型犬に振り回されている!
「待ってー、ちょっ……無理……息切れる……」
なんとか立ち止まってくれたものの、息が上がっちゃってすぐには動けない。
プーちゃんが足の周りをくるくるとまわっているけど、少し休ませてくれないかしら……?
「一緒に走るとすっごい喜ぶからねぇ。無理しなくていいよ」
後からついてきたレイさんがそう言いながら、私の手からリードを取る。
「私……犬飼ったことないから、散歩って……やってみたくて……。でも……こんな小さい子でも……ついていけないとか……体力なさすぎ……」
仕事がハードでもこなしてきたから、体力には自信があったけど、こんなところで、運動不足も露呈してしまった……。これじゃあ、クライアントに『運動もしてくださいね』なんて、偉そうなこと言えないわ……。
「ふふっ。お疲れ様。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
レイさんが、リードを持っていない方の手で私の手を取った。
「れっレイさん!ダメですって、外じゃ……」
あまりにも、自然な流れで手を取られてしまったけれど、彼がREIさんだとバレてしまったら大変なことになると思って、慌てて手を離した。
「あれ?ダメ?」
「いやっその……嬉しいんですけど、外だと何かと問題ありませんか……?REIさんだとバレちゃったら大変だし……」
「そう? 俺、オフだと全然気づかれないけどねぇ……。残念。じゃあ、帰ろうか」
「はい」

手は繋がないけど、すぐ隣を歩いて彼の家に戻る。
こんな休日も悪くないな。なんて、思った夕暮れだった。

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