ゼルダ40周年
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──ここは何処だ⁉︎
強い風を感じ目を開けると、私の体は大空を真っ逆様に降下している。とんでもない状況に心は焦っているというのに、頭は冷静に周りの情報を頭の中に入れようとしている。
目に入るは青い空、厚い雲、それにどこかで見たことのあるような空に浮かぶ島の姿が見えた。──あれか?このまま落下し続けていればそのうち「親方! 空から女の子が……!」みたいな展開になるのだろうか。私は女の子と呼べるほど幼くはないけど。
「アオイ〜!!!!」
うんうん唸りながら解決策を考えていると、誰かに名前を呼ばれた。こんな見た事のない世界に知り合いなんていないし、実は夢落ちだったりしないだろうか。もう一度寝て起きたらいつものベッドの上かもしれない。そうだ、そうに違いない。あの声だって空耳だろう。
「アオイってば! 聞こえてるんでしょ……⁉︎」
もう一度寝るために目を閉じていると、ふわっとした柔らかい感覚と人の体のような弾力のある触感が同時に体に触れる。現実逃避から帰還するように目を開けると、目と鼻の先にある男性の顔。びっくりして思わず腹の底から声を出して叫んだ。
「うわあぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるさッ! ……鼓膜が破れるかと思ったぁ〜。それだけ元気なら大丈夫そうだね」
「勇者ならこれだけ叫ぶもんだよ! じゃなくて、ごめんなさい……」
「アオイはちゃんと謝れて偉いね。よしよし」
その人物は私の頭を撫でる。頭を包んでいる手は大きく温かくて安心する。──なんて思っている場合ではない。「子ども扱いしないで」と相手の手を払い除けると、その人物の顔が視界に入った。
「……リンク?」
「そうだよ! びっくりした……?」
冷静になって今の状況を整理する。
大空を落ちていた私、それをロフトバードに乗っていたリンクが抱き止めてくれたらしい。そっと紅い羽に触れるとふわふわとした柔らかい触感。リンクは私のことを横抱きで受け止めてくれたらしい。密着している体に「ちょっと離れてもらっていいですか?」と聞くと「やだ」と即答されてしまった。
──それよりも、この男。どこからどう見ても"スカイウォードソード"の主人公のリンクだ。
「……これは夢だ。そう、夢。おやすみなさい……」
「アオイは夢の中でも寝るの? おはようございま〜す。アオイさん、起きてくださ〜い!」
「リンクがちゅーしてくれたら起きるよ。いつだって眠り姫の目覚めは王子様からのキスだからね」
「……わかった」
おふざけのノリで言っただけだった。そうだというのに、唇に温かな柔らかい感触が触れる。驚いて目を開けるとゼロ距離のリンクの顔。「えっ……?」と戸惑っていると、リンクの顔が離れていった。その顔は真剣そのものだった。
「これから真面目な話するよ」
「あっ、はい」
「アオイ。君は夢だと思いたいみたいだけど、ここは紛れもない現実。僕と君が救ったこの世界に君はその生身を放り投げられた。女神様の都合と僕の我儘によってね」
「……えっと。……し、質問してもいいですか?」
流れについていけないでいたものの、入ってきた情報に疑問を抱く。リンクは優しさを孕んだ微笑みで「いいよ。何が聞きたいの?」と答える。
「まず、僕と君が救った世界って言ってたけど、世界を救ったのはリンクと相棒のファイだよね? 協力者とかの意味だとゼルダやバド、インパとか……。そもそも私はこの世界の人間じゃない」
「見てたからね。アオイの世界だと僕と君は一心同体。……そうなんだろう?」
「リンクの名前は私たちとリンクを繋ぐって意味らしいけど……
「少なからず、僕と君は繋がってた。……ここでね」
リンクは優しく私の手を引くと、自分の胸へ触れさせる。触れた手のひらに意識を向けると、ドクンドクンと一定のリズムで振動する心臓。リンクの顔を見上げると「ちょっと緊張してる」と苦笑いを溢した。
「アオイが僕のこと面白くて好きって言ってたことも知ってるよ。……面白いには納得してないけど」
「他のリンクにはない良い個性だと思うんだけどなあ……」
「……好きな子にはかっこいいって思われたいよ」
話は脱線してしまうが、不意にリンクが溢した言葉に反応する。スカイウォードソードのリンクの好きな子?それってやっぱりあの子のことだろうか。
「好きな子って……ゼルダ?」
「な、なんで、ゼルダ……?」
「えっ? だって、イチャイチャイチャラしてたじゃん」
「イチャイチャなんてしてないよ! ゼルダは幼馴染み! 僕が好きなのは今、目の前にいる子‼︎」
顔を真っ赤にさせるリンク。
そんな表情もするんだ〜なんて呑気な事を考えながら周りを見渡す。リンクの好きな子は今目の前にいる子と言っていた。
「……ロフトバード? そういえば、バドに隠された時に怒ってたもんね」
「そうじゃないのに……。まあ、この話はあとでじっくり話そう。次の質問は君がこの世界にいる理由?」
「……うん。まあ、あり得ない事が起こっている理由を知っているなら……知りたい」
吹き抜ける風、世界を照らす太陽、触れる体温の温もり。その全てが夢である事を否定するほど生々しい。
「僕がアオイを欲しくなったから女神様にお願いして攫ってきちゃった」
「…………遠回しに言って誘拐……というよりは神隠し?ってことだよね。それ」
「遠回しじゃなくてもそういう意味だね」
にこにこと笑い、何も気にしていない様子のリンク。
言っていることはとんでもない事なのだが──。
「私って帰れるの……?」
背中に滲んだ汗が伝う。
この世界は好きだ。でも、私にも家族や元の世界での生活がある。夢見心地な思考が段々と現実へ引き戻される。
「アオイは帰りたいの……?」
その心内が見えないリンクの表情。
先程と変わらぬ穏やかな声音だというのに、どこか生気を感じられない異質な雰囲気を漂わせていた。
「……私、は……」
思考に耽るために目を閉じる。
今すぐにでも帰りたい。急にそんなこと言われても怖い。そんな考えがふつふつと湧き上がる。しかし、今、大事なことはそんなことではない。
私がここにいるのはリンクがそれを望んだから。それだけわかっているのなら──簡単じゃないか。
「リンク」
私はリンクの手を握る。
私よりも大きくて、温かい手だ。手の内側がボコボコとして硬いのはそれだけ彼が頑張ってきた証なのだろう。よく見ると、小さな傷も少なくない。
「君は私に何を望むの? それが目的なんでしょ?」
「……僕の望みを言ったら、きっとアオイは帰ることを望むよ」
「そんなこと言ってみないとわからないよ」
「言わなくてもわかるよ。……"ずっと一緒にいてほしい"だなんて、嫌だろう……?」
落ち込んだ子犬のようなリンクの額に手を伸ばす。
ペチンッと軽い音を立てながら私の指がリンクの額に衝撃を与える。所謂デコピンってやつだ。
「イテッ……! アオイ、何して……」
「一緒にいてほしい? それならいくらでも一緒にいてあげるよ。リンクが嫌って言うまでね!」
「……どうして? アオイには向こうの世界での生活があるのに……」
「リンクのことが好きだから。……純粋にね」
「……理由になってないよ…………」
リンクは涙が落ちそうな目で笑った。
確かに私には本来の世界での生活がある。でも、目の前にいる悲しそうな青年を放って自分の生活に戻れるほど薄情な人間でもない。それに相手はリンクだ。彼の人生の一部分しか見れていないとしても、その一部がどれほど大変なものだったかを画面越しに見てきて知っている。彼が私を必要としているのなら、私はそれを受け入れよう。
「私、こんなに空を感じるの初めてなんだ」
「空……?」
「うん。普通の人は飛べないからね。今はまるで空に包まれてる気分」
目の前に広がる青い空、白い雲、吹き抜ける風。ここからは大地は見当たらない。まるで地が無くなり、空しかなくなってしまったかのような気持ち。
「もっと遠くに連れてってくれる? リンク」
「……うん! もっと、アオイの知らない遠くまで連れてってあげる」
リンクは私を包み込む。
触れ体温が風で冷えた体を温めてくれる。私はその温もりに身を任せた──。