【ブレス オブ ザ ワイルド/短編】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
城に使用人として勤め始めてどのくらいになるだろうか。
辺境にあるハテノ村からハイラル城へとやってきた私。今日も遠目に彼女の姿を眺める。彼女──ゼルダ姫はいつも憂いを帯びた表情を浮かべていた。そんな儚げな彼女に惹かれた私はおかしいのだろうか。友人に彼女に好意を寄せていると相談すると、友人は同性に想いを寄せるのはおかしいと笑った。
「……私、おかしいのかな」
「そんなことない。俺はアオイのこと純粋ないい子だと思ってるよ」
「そうかな……? ありがとう、リンク」
同じハテノ村出身のリンク。
彼と私は幼い頃からの付き合い──所謂幼馴染みってやつだ。幼い頃から弱虫の私をリンクは支えてくれていた。私にとって姉弟のような頼れる存在。そんなリンクは今や退魔の騎士に選ばれ英傑と呼ばれるまでになっていた。少し寂しく思ったものの、リンクは今までと変わらず私と接してくれる。私が心の底から信頼できるのはリンクだけだった。
「昔から好きになる人は女性……同性だけだった。告白する勇気もないからそれが変だって、こっちに来るまで知らなかったよ……」
「俺は変だとは思わない。アオイが好きになった人がたまたま同性だっただけだよ」
「でも……」
「アオイ。それなら今度は少し頑張ってみよう。姫様のことが好きなんだよね? それなら少し話をしてみようよ。俺から頼んでみるから……」
「えっ!? い、いや、でも……。できるの……?」
「俺を誰だと思ってるの? 大丈夫。任せて」
リンクに優しく頭を撫でられる。
昔からそうだった。私が困っていると助け船を出してくれるリンク。私はそんな何でもできてしまうリンクに憧れていた。彼みたいになりたい。そんな出来もしないことを願ってしまう。
「こんにちは。リンクから話を聞いています。貴女がアオイですね?」
「こ、ここ、こんにちは! ひ、姫様……!」
──あれから数日後。
リンクは本当に姫様と会う機会を設けてしまった。姫様の後ろに立つリンクと目が合う。リンクは「頑張れ」と言うように目を細めた。私は身を強張らせながら姫様と少ない会話を交わす。
「リンクの幼馴染みだそうで……。彼から色々と聞いていますよ。仲がよろしくて羨ましい限りです」
「そ、そんなことは……」
何故だろう。姫様の言葉にはどこか棘があるように思える。
それから少し会話を交わした後、忙しそうな姫様は「すみませんが、この後用事があって……」と申し訳なさそうに話を区切る。「また、時間が合えばお話ししましょう。アオイ」そう言って姫様は去っていった。リンクも続くようにその後を追う。
うるさい胸の音を落ち着けながら、私も自分の仕事へと戻ることにした。
──あの日から数週間後。
城下町をぼんやりとしながら歩いていると、いつの間にか雨が降ってきていたらしい。人の声で賑やかだった街の中に人の声はない。ただ、土砂降りの雨が地面を叩く音が響くだけだった。
「アオイ」
全身びしょ濡れの私を誰かが抱きしめる。
私と同じようにその人も濡れているだろうに──不思議と温かさに包まれているように感じた。揺れる視界から見えるのは見慣れた青色。
「……リンク」
「帰ろう。このままだと風邪ひくよ」
「私……姫様に嫌われてたんだね」
姫様の姿を見かけ、話しかけようとした時のこと。彼女は私に気づいていない様子で一緒にいた女性に私のことが嫌いだと話していた。その理由はわからない。知らぬうちに失礼なことをしてしまったのかもしれない。
姫様が気付いていない間に私はその場から逃げだした。もうこれ以上何も聞きたくなかったから。そして、今に至る。
「……俺のこと利用していいよ」
「えっ……リンク? 何を言って……」
「辛いんだよね? それなら俺が慰めてあげる。アオイの好きなようにしていいよ」
「リンク……それは、駄目だよ」
辛いのは確かだ。それでも、私がリンクの言葉に甘えてしまったら、きっとリンクを傷付けてしまう。──そう、わかっているはずなのに、リンクの酷く甘い言葉を飲み込んでしまいたいと手を伸ばしてしまう私がいた。
「アオイにとって俺は大事な幼馴染み。俺にとってもアオイは大事な人。傷付いてるってわかったら慰めたくなる。……アオイにはわかるよね? この気持ち」
「それは……そう、だけど…………」
「俺の気持ち、わかって。アオイ」
リンクが真っ直ぐ見つめてくる。その綺麗な青色は傷付いた心を包み込むような温かさを帯びていた。差し伸べられた手に己の手を重ねると、優しく引き寄せられる。リンクの温かさに思わず涙が溢れた。
「リンク。ありがとう……」
その優しさに身を委ねる。
どんな時も優しいリンク。彼のことが幼馴染みとして好きだった。傷付けたくなんてなかったのに──きっと、私は君を傷付けてばかりだったんだね。そんな思いを抱きながら、彼の胸の中で目を閉じた。
―*―*―*―*―*―
──目を覚ます。
外は太陽が昇っていたものの、まだ薄ら暗い。俺は隣に視線を移すと、目元を赤く腫らしたアオイが眠っていた。
眠るアオイを起こさぬよう抱きしめる──やっと報われた想いを傷付けないように優しく。少し身じろいだアオイだったが起きる様子はない。
アオイと俺は幼馴染み。同じハテノ村出身で幼い頃からずっと一緒だった。気弱なアオイが虐められた時には俺が守った。アオイはいつも申し訳なさそうにしていたけれど、これからも俺が彼女を守り続けるんだと思っていた。アオイのことが好きだったから。
ある日のこと。アオイは近所のお姉さんに恋をした。同性愛を否定するわけではないが、アオイはきっと普通ではない。幼いながらもそんな思いが頭を過ぎる。
感じていた嫌な予感は的中した。彼女が好きになるのは同性だけ。他の男に取られる心配はなくなったものの、それと同時にアオイの気持ちが俺に向けられることはないという現実が胸を苦しめた。それでもアオイに片想いをし続けてしまう俺は重症なのだろう。
月日は流れ、俺は退魔の騎士となった。
最初は嫌悪の視線を投げつけていた姫様だったが、対話をするのとで手のひらを返したようにその視線を好意へと変えていた。
それは俺にとって不幸中の幸いとなった。
アオイが姫様に好意を寄せたからだ。当の姫様は俺に好意を寄せている。これを利用しない手はないと思った。あくまで幼馴染みとしてのアオイへの好意を姫様に話せば、案の定、姫様はわかりやすく機嫌を損ねる。それを続けていれば、きっと、姫様はアオイのことを嫌ってくれるはず。わざと、アオイと姫様の距離を近付ければアオイはいつか傷付くことになるだろうと目論んだ。その空いた隙につけ込めば、アオイはきっと俺へ想いを向けてくれるはずだ。
「俺のこと見てくれないアオイが悪いんだよ……」
こぼれ落ちた雫が君の頬を濡らした──。
8/8ページ
