【トワイライトプリンセス/短編】
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穏やかな空気に満ちているフィローネの森。
精霊様にお願いをして兎となった私は今日も今日とて森の中を駆け回っていた。
しかし、別の土地からこの場所に居着いてもう何年も経っている。見慣れてしまった景色に目新しさはもうない。世界が平和になった今、まだ存在しているものの魔物も大人しくなってきている。別の場所へ旅に出るには丁度いいタイミングだろう。
「やあ、キコル。私そろそろ旅に出ようと思うんだけど良さそうな場所知らない?」
森の動物達から好かれている油売りのキコル。大抵の人は人の言葉を話す兎を君悪がるが、彼は驚きはしたものの細かいことは気にしないのか普通に接してきてくれる。
「それは寂しくなるっスね。う〜ん、いい場所…………あっ! 丁度いい所に!」
遠くから段々と近付いてくる馬の蹄の音。
「あっ、トアルの兄さ〜ん! ちょっといいっスか?」
その馬に乗っている人物はキコルの知り合いらしい。声を聞いて近付いてきたその人は特徴的な緑の服を着た青年だった。背中に剣を携えているところを見ると旅人か剣士なのかもしれない。
「ええっと、悪いけど油なら満杯なんだ」
「そういう用じゃないっス! 兄さん、旅に出るならこの子連れてってくれないっスか? いい場所探してるみたいなんで」
キコルが私に向かって手を指すと、馬に乗ったお兄さんの視線が私に向かう。
「ついででいいんで。よろしくお願いします!」
「兎が喋った……⁉︎ 同行するのはいいけど…………」
嫌がられるかと思ったけど、案外すんなりと受け入れる青年。一度馬から降りると青年は私を抱き抱える。
「ありがとう。説明は長くなるんで道中でいい?」
「ああ。俺はいいけど……」
怪訝そうな表情のまま再び騎乗する青年。
「キコル。今まで手助けしてくれてありがとう」
「礼はいいって! 新しい場所でも元気でいるっスよ!」
キコルと別れの挨拶を済ますと、青年は馬を走らせた。私が落ちないようにしっかりと抱えてくれている。
「私はアオイ! 君の名前は?」
「俺はリンク。で、こっちはエポナ。……それで、説明してくれるんだよな?」
リンクはまるで小さな子どもに接するような声色で尋ねる。私は順番に説明することにした。
「元はハイリア人だったんだけど、精霊様にお願いして兎の姿にしてもらったんだ。人の言葉を話せるのは困った時に助けてもらえるように……だったんだけど、人の言葉を話す兎を助けてくれる人なんて変わり者かお人好しくらいしかいなかったんだよね。これは失敗!」
緩やかになった速度で受ける風が心地良い。それにいつの間にかリンクに頭を撫でられている。
「何があったら兎になりたいなんて思うんだよ……」
呆れながらでも、少し苦しそうに言葉を漏らすリンク。
「うーん、別に隠したいわけじゃないから言うけど私こう見えてもいい所のお嬢様だったんだ。まぁ、本妻じゃなくて愛人との子どもなんだけど。人の醜さ知っちゃったからさ……。人間以外の動物にして! ってお願いしたらこんな可愛い兎さんになっちゃいました!」
冗談っぽく明るい口調で言ったのにリンクの表情は曇っていた。会ったばかりの人間……兎に感情移入するほどいい人なんだね。君は。
「リンク……」
「これからハイラル城下町に行こう。もしかしたらアオイの家族が探してるかもしれないだろ?」
私の家族はそんなことしてくれる人達じゃないよ……なんて、リンクの顔を見たら言い出せなかった。
「姿を変えてから何年も経っているからもう忘れられてるよ。だからリンクの気がするんだら動物が住みやすいおすすめの場所に向かってもらいます!」
「端から諦めるなよ。行ってみないとわからないだろ?」
ハイラル城下町に着くと、リンクはポーチを開けた。
「アオイはこの中に入っていてくれ」
「兎が入るには小さくない?」
「俺のポーチなら問題ないから」
リンクの言葉を信じて、渋々ポーチに突っ込むように頭を入れると、スルスルと体も入っていく。中は不思議なことに広い室内のような空間になっており、リンクの持ち物が綺麗に並んでいた。
中は明るいものの、外の音が一切聞こえてこない。話し相手がいなくなり暇になった私は暫く寝ることにした。
「言ったでしょ。探すだけ無駄だって」
空が橙色に染まった黄昏時。半日振りの外の空気を吸いながら視界の隅にいるリンクに目を向ける。私は落ち込んだ様子の彼の頭に飛び乗った。
「ほら、行こうよ。リンク。……そうだな〜、カカリコ村の方も気になるけどゾーラ川上流の方も気になるし」
「トアル村はどうだ?」
リンクの手に捕まり、対面させられる形で抱き抱えられる。う〜ん、この抱き方体の前の部分が丸見えで嫌なんだけどなぁ……。
「フィローネの森はさっきまでいた場所だよ」
「でも森の奥の方まで来たことないだろ? 兎がいたら村中で話題になってるからな。それに、トアル村なら動物が住みやすい環境が整ってるし」
「……リンク。どうしたの? 急に」
「心配なんだ。アオイのことが。外の世界は危険だし、兎は特に狩られる側だ」
リンクの表情を見れば、心の底から心配してくれていることがわかる。行きたい場所があったわけでもないし、その案に乗ることにした。
「拾った動物は責任持って最後まで面倒見なきゃいけないんだよ?…………私はリンクになら飼われてもいいけど。」
「アオイ……」
リンクはそのまま私の体に顔を埋めた。
「ちょっ⁉︎ リンク‼︎ そこは腹じゃない……!」
「もふもふしてて気持ち良いな」
「こら! リンク! 人の話を聞けー‼︎‼︎」
トアル村に着く頃にはすっかり日が落ちて辺りは暗くなっていた。この辺りの昼間の姿はまだ知らないけど、夜は静かになるみたいだ。
リンクの家は村から外れた場所にポツンと建っていた。
「兎は寂しいと死んでしまう。もしかして、リンクも……?」
「兎はアオイのことだろ?」
リンクは私を抱えると家に入ろうとする。その前に私はエポナに向かって「おやすみ!」と言うと、エポナはリンクのことよろしくと返してきた。エポナの瞳は綺麗で見守るように温かかった。
部屋の中に入り、明かりをつけたリンクは
「可愛いな、アオイ」
と、ウットリとした表情で急に甘い言葉を吐いた。
私という兎の可愛さに人が変わってしまう気持ちはわかる。でも、リンクの場合は変わりすぎだ。まるで、狼に目をつけられた兎の気分だった。
リンクは顔を近付けると私のもふもふを堪能し始めた。
「〜〜〜〜っ! 最高かよっ」
される方の気持ちも考えてほしい。
「あっ」
偶然リンクと唇が重なった瞬間、体が光りながら兎の体が人の姿へと戻る。目の前のリンクは呆然としていたが、ハッとした表情を見せると、顔を真っ赤にさせていた。
「っ悪い!」
慌てて顔を逸らすリンク。
視線を下げるとそこには──何も身につけていない自分の体があった。
今日から始まる兎の新生活。
翌日のトアル村。
「リンクにも春が来たか〜」
と、話す村人に
「いえ。リンクに飼われているアオイです」
と、自己紹介をする私。その隣には慌てた様子のリンクの姿があった。
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