【スカイウォードソード/短編】
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目の前にいるのは同じ年の男女二人。
それはつい先日まで世界の命運のために戦ってきたリンクとゼルダ。少し前までは至って普通のクラスメイトが今やスカイロフト中の有名人だ。
「わたし達地上で生活していこうと思ってるの。アオイも来るわよね?」
「地上のことなら僕が教えるからさ! アオイも来てくれるよね?」
ジリジリとにじり寄ってくる二人。
私は後退りしながらはっきりと断った。
「私は一緒には行かないから!」
──そんな遣り取りをしたのが数ヶ月前のこと。
珍しいことにリンクとゼルダは大人しく食い下がった。前までは諦めが悪かったのに……地上での出来事が二人を変えてしまったのだろうか。……いや、二人共精神的に成長したんだろう。私はまだ前に進むことが出来ずにいるのに。
幼い頃から住み慣れたスカイロフトは私にとって少し居心地の悪い場所になっていた。何処へ行ってもリンクとゼルダの名前を聞かない場所は無い。
二人は偶にフラッと帰ってきては必ず顔を見せに来てくれる。元気そうなその姿に安心するが、胸の中はザワザワとして苦しかった。──リンクのことが好きだったから。
まだ騎士学校に通っていた時は幼馴染みだから一緒にいることが多いのだろうと思っていた。茶化すように二人が想い合っているんじゃないか?と聞いていた生徒もいたけど二人はそれを否定していた。でも、今のリンクは自らの意思でゼルダと共に地上で暮らしている。本心では彼女のことを女性として大切に想っていたんじゃないだろうか。
「はぁ……」
静かな部屋の中にため息が虚しく響いた。
私の気持ちは誰にも言っていない。私だけの秘密。それに、言ったところで誰かが味方になってくれるわけがない。
リンクをライバル視してゼルダを想っていたバドの姿はもうない。何かに吹っ切れたようなスッキリとした顔で地上から戻り、その後は人助けや物作りを積極的に励んでいる姿がよく見られる。リンクやゼルダ共友人として良い関係が築けているようだ。
クラネ先輩はキコア先輩と良い雰囲気だし、どちらも頼りになる良い先輩だけど二人の空気を濁す真似はしたくない。話せばきっと親身になって聞いてくれるだろうけど……。
彼がスカイロフトに戻ってきた際におめでたい話をお土産に帰ってくるんではないかと期待している人達もいる。そんな声を聞いてしまって、私のこの気持ちは居場所を見つけられずにいる。
私は心に決めた。
リンクのこと綺麗さっぱり諦めるために旅に出ようと思う。所謂、傷心旅行というものだ。行ったことのない場所に向かえば何か夢中になるほどのものが見つかるかもしれない。
──そういえば、前にリンクから聞いた旅の話で出てきた時空石という物。それは綺麗な青色の石と言っていたのを思い出した。私も見てみたいと思ってそのままだったけど、今なら私一人でも見に行けるのではないだろうか。
「私も見てみたいな……」
「なら、僕と一緒に見に行こうよ! その、この旅が終わった後の話になっちゃうけど……」
「うん。楽しみにしてる」
あの時の記憶が頭を過ぎる。
君は覚えてないかもしれないけど、私ずっと待ってたんだよ。
「…………あ、暑い……っ‼︎」
ジリジリと肌を焼くほどの眩しい日差し。時空石が見れるラネール地方に来たはいいものの、準備が甘かったみたいだ。
右を見ても左を見ても周りが全て砂だらけ。サラサラの砂に足が取られて上手く前に進むことが難しい。魔物を避けながら歩いているけど一面の砂景色から変わらない。
ずっと滲み出ていた汗は少し落ち着いたようで、ずっと拭き続けなくてもいいほどになっていた。視界は少しグラグラと揺れていたけど多少不便なくらいで問題はなさそうだった。
「すこし……つかれた…………」
目の前にあった日陰で膝を抱えて疼くまる。
息も苦しいし、少し疲れているのかもしれない。少し休んでそれから帰ろう。
「……っ! ──‼︎ ……ぇ!」
誰かが隣で叫んでるけど、ごめん。少し休ませて。
そのまま重くなった瞼を閉じた。
目を開けると見慣れた天井が見えた。
此処は──自室だ。頭を動かそうとすればズルりと額から何かが垂れ落ちる。落ちた先を視線で追えば、そこには少し湿ったタオルがあった。
……手が温かい。そこを見れば私よりも大きな手に握られていた。その手の主は──リンクだった。
「ん……」
「あっ……」
身じろいだリンクの瞼の奥の綺麗な青色が覗く。
「……アオイ? …………アオイ⁉︎ 起きて大丈夫⁉︎ 辛くない⁉︎ あっ! 僕のことわかるよね⁉︎」
勢いよく起きるとリンクは捲し立てるように聞いてくる。リンクのことを落ち着かせようと「大丈夫だよ。リンク」と返せば、リンクは大きく息を吐いた。
「心配したんだよ。スカイロフトに帰ってきたらアオイが居ないし、ラネール地方に向かったって聞いて慌てて向かったら倒れてるんだもん」
「ごめん。そうだったんだ……」
途中から記憶が曖昧だが倒れていたのは事実だろう。そうでもなければ今の状況の説明がつかない。
「僕が行ってなかったら今頃アオイは死んでたよ」
リンクの鋭い視線が突き刺さる。でも、リンクは責めているわけじゃない。心配しているんだ。その真剣な表情を見ればわかる。
「迷惑かけてごめんなさい」
視界の端に背中に回されそうな腕が見えた。それをやんわりと遮る。
「アオイ?」
「私は……ずっとリンクが好きだった。でも、リンクはゼルダが好きなんだよね? なら、こういうことはしないで」
顔を伏せる。相手にその気がなくても、その優しさに勝手に期待してしまう。そんな自分が嫌だった。
部屋に沈黙が流れる。
この沈黙を断とうと、リンクの名前を呼ぼうとした。が、出来なかった。唇に柔らかい感触。目の前にはリンクのドアップの顔。
離れていく顔を眺めながら「えっ?」と、小さく言葉が溢れた。
「僕も好きだった。ずっと……」
頬を赤らめてウットリとした表情のリンク。
「ん……」
呆然としていると再び重ねられる唇。
「ちょっと……待っ…………むっ、リン……っ!」
片手を後頭部に回されて味わうようにキスをしてくる。自然な流れでベッドに体を沈められると、腕を這うように撫でられながら指を絡めてきた。
調子に乗り始めていたリンクを空いていた片手で制止する。
「リンクはゼルダが好きだったんじゃないの⁉︎」
「え? 僕が好きだったのはアオイだよ。ゼルダは幼馴染みでよく相談に乗ってもらってただけ」
「地上で仲良く暮らしてるんじゃ……?」
「ゼルダは封印の地で暮らしていて、僕は地上を旅してるから一緒には暮らしてないよ。会いに行くことがあるくらいで」
あまりの急展開に頭がついていけずにいると、リンクは優しく私を抱き寄せた。リンクの温かさを感じて頬に熱が集まる。
「えへへ、アオイ。大好きだよ……」
噛み締めるように言葉を溢すと、頭をスリスリと擦り寄せるリンク。そんな姿に気が抜けたと同時に雫が目からこぼれ落ちる。
「え⁉︎ ご、ごめん! 嫌だった……?」
「そうじゃなくて……っ。リンクが約束忘れちゃったのかと思って…………」
「約束? もしかして、時空石一緒に見に行こうって約束のこと?」
「え? 覚えてたの……?」
「忘れるわけがないよ! その……記念日は初デートにしたいって思ってて、僕に告白する勇気が無いばっかりに……ごめん!」
慌てて頭を下げるリンク。
「……なら、これからはリンクの旅に同行させてよ。その、リンクと…………ずっと一緒にいたいから」
最後の方は小声になっていたのにリンクの耳にはしっかりと届いていたらしい。顔を上げたリンクの瞳はキラキラと輝いていた。
「うん。うん! アオイのことは僕が守るから! ……だからずっと側にいてほしい」
真剣なリンクの表情。熱の籠ったその目に私の姿が映っている。
「夢じゃ、ないんだよね……?」
「夢にはしないさ」
再び重なった唇は蕩けそうなほど甘かった。
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