【ブレス オブ ザ ワイルド/短編】
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いつもの平凡な日常を暮らしていた。
男子高校生らしく学校では友達とふざけ合って、バレンタインにチョコを貰える程度にはモテて、頭も人並みには良い方だろう。
そんな日常が──ある日突然崩れ落ちた。
目を覚ますと俺はハイラルという場所にいた。
人は特徴的なエルフのような長い耳、ハイリア人というらしい。他にも魚が混ざったようなゾーラ族、岩のような見た目のゴロン族、大きな鳥に見えるリト族、ハイリア人と似ているが褐色で高身長の女性しかいないゲルド族という種族もいるみたいだ。
「リンク! どうしたのですか? ボーっとして……」
リンク。それがこの世界の俺の名前。そして、その名を呼んだ今目の前にいる女性の名前はゼルダ。
「いえ。何でもありません」
そう言えば、ゼルダは安心したような表情を見せると再び前を向く。それなりにモテた俺にはわかる。彼女がリンクに好意を寄せていると。
ゼルダ。その名を聞いて初めて思い出したことなのだが、この世界は友達の一人が遊んでいた作品によく似ている。というより、そのまんまなのだ。
俺は興味がなかったので隣で遊んでいるのを見ていたくらいだったが、その友人は「シリーズ過去作は知らないけどさ、今作のゼルダ姫可愛いんだよ! あー! もう! リンク、そこ代われ! お前もやってみたらわかるって! この気持ち‼︎」と、熱弁されたが、遊んでいるのを少し横目で見た程度だけど、俺はゼルダよりもリンクの方が好きだった。
だって、リンクは面白い男だと思ったし、何事にも真面目で一生懸命な人間に見えたから。リンクを敵視しているリーバルは兎も角、周りから頼られているのはその人柄の良さがあってのことなのだと思った。
リンクとして過ごしているある日、白いシルエット姿の女性が夢に現れた。姿はぼんやりとしていてハッキリとは見えない。長い金髪に白いワンピースのような服を着ているとしかわからなかった。
その人は俺がこの世界に慣れてきているのを見計らって出てきたらしい。なんでも本物のリンクに関しての話がしたいのだとか……。
どうやらリンクの精神はギリギリまで追い詰められていたらしい。それを見守っていた白い女性は居ても立っても居られず、自分の力を使ってリンクの精神(魂)を眠らせたのだと説明された。それが出来るのは白い女性が女神だから……なのだとか。そして、魂が眠った状態では体が空っぽになり体も永遠に眠り続けてしまうこと、その状態では世界に支障をきたしてしまうので代わりの魂として別の世界から無造作に選ばれたのが俺だったこと。それらを聞かされた。
普通の男子高校生にこの世界の運命を託すなんて……と思ったが、それを心でも読んだかのように「貴方がリンクに好意を抱いてくれていたからかもしれません」と、説明された。思春期の青年の心読まないで女神様。
生活は兎も角、普通の男子高校生だった俺が戦う術なんて知っているわけもなく。それでも体が自然と動いてくれて何とかなっている。きっと、俺の想像もつかないほどの努力をリンクは重ねてきたのだろう。現代の学生だったら不真面目な生徒に対してリンクを見習いなさいって先生から言われてただろうな。現代にリンクが居たなら多少の嫉妬はされつつも周りから憧れの存在として見られていただろう。あとは顔が良い、勉強が出来る、運動神経抜群なんて女の子からモテまくりな姿が容易に想像出来る。くっ、羨ましいなんて思ってないからな。
何はともあれ、リンクはもっと褒められるべきだったのだと思う。
「ねえ、リンク。何か変わったね。前とは少し雰囲気が違う気がする……」
ミファーにそう言われた時は心臓が止まるかと思った。ミファーはリンクの幼い頃からの知り合いで好意を寄せていて、周りに気を配れる優しい良い子だ。
そんな彼女だからこそ、些細な変化にも気がつくのだろう。
さてと。俺がリンクの代わりを務めるのは別にいいとして、この体の持ち主のことを思うと、やっぱり今の環境を変える必要があると思う。
いつか、リンクが帰ってきて俺の役目が終わった時に何も変わっていない現実を見たらまたリンクは苦しむのではないだろうか。リンクと俺は赤の他人だ。俺はお人好しな性格でもない。
俺のこの世界での役目。
それはリンクに過ごしやすい日常を作っておくこと。それは結果としてリンクにとって迷惑になるかもしれない。でも、俺は彼と同じ場所で過ごしていてとても息苦しかった。だって、逃げ場が無いじゃないか。この気持ちはリンクも同じだったんじゃないだろうか。少なからず、精神的疲労を抱えるくらいにはリンクは苦しんでいたことは事実だ。
俺は嫌な時に授業サボったりして逃げて気を紛らわせていたけど、リンクはそれが出来なかったんだよな……?
同じ世界に生きてたなら一緒に授業サボって、好きな子の話で揶揄い、嫌いな奴の悪口言ったり、放課後は何か食いに行こうって誘ったりしてあげたかったな。
大丈夫だ、リンク。痛みも苦しみも俺が全部背負うから。縛られる必要の無くなった世界で自由に生きてくれ。そして、自然に笑うリンクの姿を──俺は見てみたいよ。
辺り一面真っ白な空間。
そこで眠っている青年が寝言をぽつりと呟いた。
「俺も君と共に同じ世界を生きてみたかった……」