【時のオカリナ/短編】
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内部が複雑な造りになっていた水の神殿を乗り越え、次は何処へ向かおうかとナビィに相談していた矢先、目の前にロンロン牧場が見えてきた。
「ナビィ。ちょっと寄り道していい? 久しぶりにロンロン牛乳飲みたくなっちゃって……」
「もう、リンクったら! のんびり屋さんなんだから」
牧場に入ると、いつもの同じ場所にいるマロンに挨拶をしに向かう。
「あら、リンク。久しぶりね! エポナも元気そうで良かった……」
「こんにちは、マロン! 近くに寄ったからロンロン牛乳を買いに来たんだけど……」
「それなら厩舎にいるアオイから貰って。今なら搾りたての新鮮なミルクが飲めるわよ。あっ、料金はアタシが預かるから」
「あ、うん。あのさ、その……アオイって誰?」
オレの言葉に驚いた表情をするマロン。
「アオイはアタシの幼馴染み。父さんが帰ってきて生活が落ち着いてきたからまた牧場の手伝いに来てくれてるの。7年くらい前にリンクがうちに遊びに来る度に話しかけてた女の子よ」
「え‼︎ あの子の名前ってアオイっていうの⁉︎ ごめん! マロン! オレ急ぐから! ……あっ、これお代ね!」
オレは走って厩舎の方へ向かった。
後ろの方で「あれだけ話しかけてて名前も知らなかったの⁉︎」と、驚いているマロンの声が聞こえていた。
馬や牛の独特な匂いが満ちている厩舎の中、周りをキョロキョロと見渡しても人の姿が見当たらない。すれ違いになってしまったのだと思い、扉に手を掛けたところで背後から声を掛けられた。
「あの……。何か御用でしょうか?」
早く会いたいと急く気持ちで額に汗が滲む。
勢いに任せて振り返ると、そこには見慣れた──だけど大人に成長していた彼女がいた。
「全身緑……もしかして、リンク?」
「へ? そう、だけど……名前教えたっけ?」
「マロンから教えてもらったんだよ。あの緑の少年の名前はリンクだって」
嬉しそうにニコニコと笑うアオイ。
オレにとってはほんの少し前の出来事でも、アオイにとっては何年も前の事だろう。違う時間を過ごしている違和感に悲しくなるけど、それよりもオレの事を覚えていてくれた事への嬉しさが勝った。
「アオイは今まで何処にいたの?」
「前は城下町に住んでたんだけど……あんな事になっちゃったでしょ? 今はカカリコ村に住む知り合いにお世話になってる。牧場と距離が離れてはいるけど、愛馬で駆けたらすぐに来れるからね」
アオイの話を聞きつつも、つい、アオイの姿を観察してしまう。7年前はオレより少し背の高かったアオイだが、今はオレの方が少し背か高い。体格差だって変わらないくらいだったのに、アオイの体はか弱くて柔らかそうだ。それこそ、オレの力に敵わないアオイの姿が容易に想像できる。……あれ。オレ、何でそんなこと思ってるんだろう。
「リンク、大丈夫? ボーっとしてたけど疲れ溜まってるんじゃない?」
オレの額に手を当てて熱がないか確かめるアオイ。熱が無いとわかると離れていく手が名残惜しかった。
「大丈夫。あと、ロンロン牛乳貰っても良いかな? お代はマロンに先払いしてあるから」
「うん。ちょっと待っててね。ロンロン牛乳はいつも品質が良いけど、今回のは牛さんが絶好調らしくて特に一級品だよ!」
アオイに空き瓶を渡すとそれに牛乳を入れてくれる。それから空き瓶をもう一つ用意すると、それにも牛乳を入れるアオイ。
「それは……?」
「頑張ってるリンク君にサービスでもう一個プレゼント! みんなには内緒だよ」
「ありがとう、アオイ」
渡した分ともう一つ、新しいロンロン牛乳入りの瓶を受け取る。牛乳がなみなみ入った瓶に口をつけて半分ほどの量を喉に流していく。牛乳の甘みが口内に広がる。
「はぁ、生き返る……。やっぱりロンロン牛乳は最高だなぁ」
味も美味しければ体力も回復する最高の一品だ。
「子どもの時から思ってたんだけど、リンクって本当に美味しそうに飲むよね。リンクのそういうところ好きだよ」
「す、好き!?」
「え? そんな驚くことかな……?」
アオイに好きと言われて胸がドキッとした。オレもアオイのこと好きだけど……何故だろう。子どもの時の好きと今感じている好きは別物な気がする。
アオイと外に出ると空には少しオレンジ色が混ざっていた。昼過ぎくらいに着いたとはいえ、少し話しすぎたようだ。
「アオイはいつ帰るの?」
「いつも大体太陽が沈んでからだね。後片付けとか手伝ってたら遅い時間になっちゃうんだよね」
「え!? カカリコ村に帰ってるんだよね? 夜道は危ないよ!」
夜は月明かりがあるとはいえ辺りは真っ暗だ。それに戦う術もない女性が一人で出歩くのは危ないだろう。
「馬で走り抜けるだけだからすぐだよ?」
「それでも放っておけないよ」
キョトンとした表情をしているアオイの手を優しく包み込むように取る。真剣に見つめればアオイは「心配性だね、リンクは」と、言った。
「オレに送らせてくれないかな。その……、カカリコ村へ行こうと思ってたし!」
急に目的地を決めたことで帽子の中でナビィが頭に突っ込んできていた。いてて、ナビィには後で謝らないと……。
アオイは少し考える素振りをしてから柔らかく笑った。
「そこまで言うんだったらお言葉に甘えさせてもらおうかな」
内心でガッツポーズを決める。ああ、もっとアオイと一緒に居たいな。
この好きが芽吹くまで──あと数時間。
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