【白杖の少女と古の勇者】
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私の世界は常に何もない。ただ、暗い世界が広がっていた。この世界にある色も形も私の目には映らない。
産まれた時から私は目が見えなかった。
空の青も、林檎の赤も、木々の緑も──私は知らない。
城下町は人で溢れていて、夜も物騒だからと一人で出歩いたことはなかった。
ただ、今日だけは違った。悪魔がほんの少しの出来心を擽る。両親が眠っている隙に住み慣れた家の中を静かに歩き、使い慣れた杖を片手に外の世界へと一歩を踏み出した。
音と感覚だけを頼りに最寄りの城下町南門まで進んでいく。杖が何かに当たる。手探りでそれに触れると、その触感は……扉だ。幸いなことに真っ直ぐ門へと辿り着いたらしい。
慎重に一歩ずつ歩いていくと……空気が変わった。
鼻腔を通り抜ける風に微かに草の香りが混じっている。ここから先は私の知らない場所。
外の世界には魔物が存在しているらしい。
目が見えていても危険な世界らしい。それは私にとってとても都合が良い。だって──死ねるのだから。
一人で生きていけない、夢も希望もない私。ここで死ねば、明日には『盲目な少女に起こった不幸!悲しき事故!』なんて題名でニュースになっているのかもしれない。
「それ以上先に行ってはいけない」
不意に何かが腹の辺りに触れ、前に進むことを拒んでくる。そして、背後の頭上からは男性の低い声。……声の近さから、男性が私の胴体に腕を回しているのだろう。
「ご親切にありがとうございます。でも、私、わかってますから……。好きにさせてください」
そう言っても男性は諦めてはくれなかった。
「それは無理だ。君は……死ぬ気だろう?」
「…………わかってて止めるんですね。もしかして、普段からお人好しだって言われるタイプですか?」
初対面の相手になんて口の利き方だ。でも、嫌われる態度をとれば、この人だって諦めてくれるはず。
「……あまり、こういうことはしたくないんだがな」
男性はそう言った後、体に響く強い衝撃。私の意識は深い暗闇へと落ちていった。
── 死にたい白杖少女とお節介焼きな古の勇者 ──
「こんばんは。貴方が何処のどなたか存じ上げませんが、乙女を殴ったんですから責任取ってくれますよね? 勿論、その体で」
「……随分と神経が図太いんだな」
「ありがとうございます。褒め言葉として貰っておきます。……死ぬことを許してくれないなら、教えてくれませんか? 生きる希望ってものを」
「……。知り合いに私と同じお人好しがいる」
「却下で」
「私じゃなくてもいいだろう。何故だ」
「最初に手を出したのは貴方なんですから。他の人に任せるなんて言ったら私、許しませんからね。死んで呪ってあげます」
「それは……………………はぁ、わかった。但し、人のいる所には行けないからな」
「ふふ、構いません。今この瞬間も、案外楽しいですから……」
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