【もしもこの感情に名前をつけるならば】
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09
「貴女がアオイですね!リンクから事情を聞いていたプルアから貴女の話を聞いていたところだったんです。リンク!少しアオイをお借りしますよ!」
監視砦に向かう道中でリンクからゼルダ姫様のことを聞いていた……が、目の前には予想と違って元気なゼルダ姫様の姿。
リンクが助けた際には、ゼルダ姫様は飛ばされた時代の服装をしていたようだが既に今の時代の服に着替えていたらしい。
ゼルダ姫様の威勢の良さに、思わずリンクの背中に隠れる。
「リ、リンク……!」
「アオイ、ごめん。姫様のあの状態は俺でも止められない」
「悪い人じゃないから。頑張って行ってらっしゃい」と、リンクは私をゼルダ姫様の前に差し出す。
ゼルダ姫様は私の両手を握ると、キラキラとした眼差しで此方を見てくる。
「ゼ、ゼルダ姫様。駄目です!貴女の御手が汚れてしまいます……っ!」
「私は気にしません。さあ、アオイ。あちらで"二人きり"で話ましょう!」
私の手をグイグイと引っ張るゼルダ姫様。
リンクの方に視線を向ければ、少し柔らかく微笑んでいた。
***
「アオイ。単刀直入ですが貴女はあの男、魔王ガノンドロフの子孫ですね」
「……そう、みたいです。私は……その、処刑されるのでしょうか?」
「そんなことさせません! ごめんなさい。ただ、確認がしたかっただけなんです。……この国は厄災ガノンと魔王ガノンドロフに苦しめられてきました。貴女を見て真っ先に思ったのです。貴女はあの男とは違うと」
「ゼルダ姫様……」
ゼルダ姫様は柔らかな笑みを浮かべる。
その瞳は陽だまりのような温かささえ感じられるほど温かなものだった。
「罪を償うべきなのは犯した本人です。貴女は悪くない」
「ゼルダ姫様。それでも、思ってしまうのです。自分の存在が他人を不幸にさせてしまうのではないかと」
「アオイ。もし、自分の中に魔王の力があると思っているのなら気にする必要はありません。だってこの国には私とリンクがいますから……」
重ねられた手から伝わる感覚。
ゼルダ姫様の言葉は慰めではなく確信なのだろう。不安に思う必要はないと。
「ありがとうございます。ゼルダ姫様。…………あの、私思うんです。きっと、魔王からも見放されたんだろうなって」
「……そうですね。あの男はアオイも操り人形の一つとして計画していたのかもしれません。でも、貴女は、その……力が無いように見えます」
「何に対しても逃げることしかしてこなかったからでしょうね。特別な力も無いですし……。ゼルダ姫様。その、確認がしたかったからだけでしょうか?」
「あっ、いえ。本題は別です」
「アオイ」と、私の名前を呼ぶゼルダ姫様と向かい合う形になる。先程とは打って変わって瞳をキラキラと輝かせるゼルダ姫様。
「私と友達になってください!」
「……えっ。わ、私とですか? ゼルダ姫様のようなお方と友達だなんて……っ!」
「嫌、でしょうか?」
「嫌ではないです!けど……、ゼルダ姫様はリンクのこと好きなのでは……?」
恐る恐る聞くと、ゼルダ姫様はキョトンとした表情になる。
ずっと共に苦楽を共有してきた仲なのだ。リンクは否定していたけど、ゼルダ姫様もそうとは限らない。
「アオイはリンクと同棲していましたね」
「すみません。主人と使用人みたいな仕事の関係ですけど……」
「確かに私はリンクが好きでした」
「そうですよね。好きで……ん? でした?」
「とっくに諦めてます。だって、彼頑固なんですよ? 私なりにアピールしていたのに全然靡かないんです。……未練がないとは言い切れませんけど一生独り身より、リンクよりも良い人見つけて後悔させてあげますよ! 私を選ばなかった貴方が悪い、と……」
「ゼルダ姫様……」
「そろそろ戻らないと皆に悪いですね。帰りましょうか」そう言い、ゼルダ姫様は監視砦の方へ踵を返す。
数歩歩いてから足を止めるゼルダ姫様に、不思議に思いつつ私も歩みを止める。
「アオイ。リンクのこと頼みましたよ」
ゼルダ姫様は何処か切なげな面持ちを私に向けると、すぐさま表情を戻して再び歩き始める。
その言葉にどんな想いが込められていたのか、私にはわからなかった。